この4月から、法改正によって年次有給休暇の取扱いが変わります。そこで最近、年休の取扱いについてのご質問をよくいただきます。
(詳しくは、過去記事「法改正で年5日休むため会社と社員でやるべきこと、捨てること」をご覧ください)
そのなかには、「この春から子会社へ出向する社員の年休日数は、どうカウントすればいいですか?」と、出向社員の年休の取扱いに関するものもあります。
ちょうど今は新年度の人事異動を検討する時期でもあるので、人事担当者の方は「今の会社で発生している年休を出向先の子会社でも使えるのか?」「いったんリセットすることになるのか?」などと、頭を悩ませることもあるかもしれませんね。
そこで今回は、出向社員の年休日数をどうカウントするとよいのか、について詳しく確認していきましょう。
年休日数のポイントは「継続勤務」
年休は、社員が6ヵ月間継続して勤務し、所定労働日数の8割以上出勤することによって発生します。そして、継続して勤務する年数に応じて年休日数が加算されます。
この「継続勤務」とは、社員が実質的に同じ企業のもとで被用者としての地位を継続している状態のことをいいます。「継続勤務」であるかどうかは、形式面を重視するのではなくて、実質的にどうなのか?に着目して判断しなければなりません。
在籍出向の場合、出向社員は出向元の企業に在籍しています。よって、出向期間中は「継続勤務」として取り扱われることになります。
一方、転籍出向で出向元企業(転籍する前の企業のこと)を完全に退職している場合は、「継続勤務」とはいえなくなります。
けれど、「転籍」とはいいながらも実際には出向元企業に復帰することが予定されているケースも実際には見受けられます。
そんなときは、前述のとおり、形式にとらわれず実態に即して判断する必要があります。
今ある年休を出向先で行使できるか?
では、出向元の企業ですでに発生している年休権を、出向先で行使することはできるのでしょうか?
結論からお伝えすると、前段のように出向は継続勤務として考えられるので、出向社員は出向元企業で発生した有効期間中の(時効2年間のうちの)年休を、出向先企業においても取得できることになります。
もちろん、出向先企業には「事業の正常な運営を妨げる事由」があれば、会社の時季変更権(その日でない日を年休とするように指示する)の行使が認められます。
出向社員の年休日数はどうなる?
出向社員が出向先企業で取得する年休日数は、出向元企業からの勤続年数を通算してカウントすることになります。
ただ、ここで問題となるのは、出向元企業と出向先企業の年休日数の基準が異なる場合です。よくあるのが、出向元企業では法定を上回る年休日数を付与しており、出向先企業では法定通りの年休日数を付与しているケースです。
この場合、出向社員が出向先で出向元の基準による年休を消化することになると、「なぜあの人(出向社員)だけ休みが多いのか?」と出向先の社員との公平を欠き、軋轢を生んでしまうかもしれません。
また、「今日もまた(出向社員が)休みで、打ち合わせの予定が立てづらい・・・」など、出向先の職場において仕事上の影響が出るおそれもあります。その問題を解消するために、出向先の状況に合わせていると、出向社員にとっては、出向先で年休を消化しきれないことになるでしょう。
そこで、実務的には次のような取り扱いにするケースが多いようです。
このような内容は、通常は出向元企業と出向先企業との間による、出向協定において定めることになります。
労働条件の格差を是正する方法について、法律上の規定はありません。合理的で相応な方法でさえあれば、どのような方法をとってもOKです。
出向社員のモチベーションを保ち、本領を発揮してもらうにはどんな方法をとり、またどのように本人に伝えるのかを、あらかじめ考えておきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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