もし、採用内定者が入社日までになにか問題になるようなことを起こした場合は内定を取り消してもいいのかな?でも、問題行動を起こして悪いのは本人なのに、そこまで会社が考えないといけないものかしら?
"(-""-)"(採用担当者談)
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そろそろ新入社員を迎える準備で慌ただしくなる時期ですが、採用担当者を悩ませるのが採用内定者の内定取消し問題です。
ひとくくりに採用内定者といっても、法律的には「採用予定者」と「採用決定者」に区分されます。会社は採用内定の取消しを行って問題がないかは、「労働契約の成立」が問われるので、「採用予定者」と「採用決定者」とに分けて考えなければならないからです。
そこで今回は、問題行動を起こした採用内定者の取消し問題について、詳しく確認していきたいと思います。
採用予定者の取消しについて
まず、「採用予定者」と「採用決定者」はどう違うの?と思われるかもしれませんが、詳しくは、過去記事「採用内定者に就業規則の適用はアリかナシか」をご覧ください。
(読まれました?「採用予定者」と「採用決定者」の違いについてはご理解されましたよね、では本文に入ります^^)
単に採用予定の段階にとどまる場合の「採用予定者」についての内定取消しは、あくまでも労働契約が成立する前のことです。
したがってこの場合、労働契約の解除にはあたらず「解雇」にはあたりません。
もしこの内定取消しの理由が不当なものであれば、会社は民法上の不法行為としての損害賠償責任を負う可能性があります。
(内定取り消しの責任を、金銭的な賠償で解決するケースが多いようです。)
採用決定者の取消しについて
「採用決定者」には、会社が社員として採用するという確定的な意思が表示されており、労働契約が成立しています。
労働契約が締結された後である以上、採用内定の取消しは労働契約の解約となります。
この場合、合理的で正当な理由がなければ、採用内定の取消しは無効となります。
正当と認められる理由には、次のようなものがあります。
①条件付き労働契約の場合、条件が達成されなかったとき
【例】
- 「卒業したら採用する」としていたのに、卒業できなかった
- 「所定の免許・資格を取得したら採用する」としていたのに、取得できなかった
②採用内定の取消事由を約束している場合、その取消事由が発生したとき
【例】
- 健康状態に異常が発生した
③その他の不適格事由が発生したとき
【例】
- 犯罪を犯し逮捕された、起訴された
問題行動による内定取消しはどうなる?
さて、本題の「採用内定者が問題行動を起こしたとき、内定を取り消していいのか?」についてです。
内定者が「採用予定者」であれば、内定の取り消しはできます。
一方、「採用決定者」であれば、前段のような正当な理由が必要となります。
たとえば採用決定者が交通事故を起こしたとしたら、交通事故の程度により判断されることになります。
本人に重大な過失があり、事故の結果が深刻であれば内定取消しはできますが、第三者に被害を与えていない軽微な事故であれば、内定取消しは認められません。
最近はSNSへの不適切な内容の投稿について話題に上ることが多いですが、たとえば採用決定者がそのような行為をしたとして、その投稿内容、目的、様子に照らして内定取消しを判断しなければなりません。
現に会社に対して具体的な損害を生じさせるものであるのかどうかが判断のポイントです。
なお、新規学卒者の内定取消しをする場合には、公共職業安定所長または学校長にあらかじめ通知することが必要です(職安法施行規則による)。
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内定時には知り得なかった事情によって、内定を取り消すことはとても残念な出来事です。けれどここで、そもそも誰でも採ればいい、という数合わせの発想で、人材を深く見極めずに採用活動を行っていなかったか?と省みることも必要かもしれません。
企業の採用活動は、同じ志を持って一緒に働く仲間を見つけることです。単なる数合わせではなく、これからの会社の人事戦略にマッチした人を採用する(マッチしない人は採用しない)、との方針を固めることはとても大切です(なにがなんでも数を確保したい、との考えをどうしても捨てられないケースを多く見受けるので、なおさらそう思います)。
また、めでたく人材を獲得した後でも、「本当にこの会社が自分に合っているのか、ほかに自分をもっと活かせるところがあるのではないか」と内定者の心は揺れ動くものです。そんな彼らの心情を理解し、それに寄り添った内定者フォローを行いながら、内定期間中に社会人としての心構えを伝えていくことも、内定取り消しの事態を未然に防ぎ、定着率を上げるためにも重要になってきます。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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