みなさんの会社の就業規則の1ページ目を開いてみてください。
そこには「この規定は、就業規則に定める当社の従業員に適用する」とのように、就業規則の適用範囲が定められていると思います。
さて、ここで問題です。いったい何時の時点から、「当社の従業員」に該当するのでしょうか?入社してから?それとも試用期間が終わってから?・・・取扱いに悩むのは「採用内定者」ではないでしょうか。
採用されることが内定しているとはいえ、「当社の従業員」かというとそうとも言えないような。 「当社の従業員」に該当しないなら就業規則は適用されないのか?これから採用されるので「見込みの従業員」として準用されるのだろうか?・・・思考が堂々巡りになりそうです。
そこで今回は、採用内定者に就業規則の適用はアリなのか、それともナシなのかについて詳しく確認していきたいと思います。
採用内定者とはどんな人?
まず、採用内定者とはいったいどんな状況にある人なのかを確認しておきましょう。
一般的に採用内定者とは、採用選考によって企業が採用を予定、または決定したもののまだ在学中のため入社に至っていない人の「総称」をいいます。
この採用内定者には2パターンあり、法律的には「採用予定者」と「採用決定者」に区分されます。
★採用内定者は次の2パターンに区分される
採用予定者 |
単に「採用する予定です」「採用の内定です」ということだけを本人に手紙や電話、メール、口頭で通知している場合。 (通知の手段は問わない) 労働契約が成立していないので、その会社の社員としての地位を得ていない人。 よってその取消は解雇にならない。 |
採用決定者 |
内定の通知後、必要書類の提出や入社日の通知をはじめ正式な採用決定の手続きが行われている場合。 労働契約が成立しているので、その会社の社員としての地位を得た人。 ただし、卒業が条件となっていたり、入社日からという始期がついていれば、効力の発生はそれらが達成された時からとなる。 よってその取消は民法上の解雇になる。 |
上記のように、2パターンのうちいずれであるかによって、法律上の地位に大きな違いがみられます。
採用内定者への就業規則の適用はどうなる?
さて、採用内定者には労基法の適用はありません。
労基法は、「労働者」に該当したときから適用されますが、採用内定者はこの労働者にあたらないからです。
労基法上の労働者になるためには、1)会社に雇用されること、2)賃金が支払われること、の2つの要件をみたす必要があります。
採用内定者は、たとえ採用決定者であったとしても、まだ在学中の学生なので会社に出勤して働いていません(よって給料が支払われることもありません)。
ですからこの2つの要件をともにみたすことはできません。
では本題の、在学中で学生である採用内定者への就業規則の適用があるのか、ないのか、についてみていきましょう。
労働契約法では、「労働契約の内容は、就業規則で定める労働条件による」旨が定められています(もちろん就業規則の内容が合理的であり、社員に周知していることが大前提)。
だとすると、民事上の労働契約が成立すれば(前述の採用決定者のケース)、ただちに就業規則の適用を受けるのでしょうか?
一般的に在学中の学生については、現実の入社を効力の発生条件として就業規則が適用されると考えられています。つまり、職場のルールとしての就業規則の効力は、労基法が適用される「労働者」となったときから、ということです。
さもなければ、学校で勉学にいそしむ学生の身分であるにも関わらず、会社の就業規則が適用されるということになります。それは理屈に合いませんし、実態にもそぐわないですよね。
よって、学校を卒業してから入社日を迎えるまでは、採用内定者に就業規則の適用はありません。
***
「採用内定者に就業規則の適用はアリなのか?それともナシなのか?」
答えは簡単なようで、よくよく考えてみると即答しにくいトピックとして、実はよくいただく質問内容でもあります。
この記事が、採用をめぐる法律知識のひとつとして、人事担当者の方をはじめ採用実務に携わる方々のお役にたちますように。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
■提供中のコンサルティング
■顧問契約・単発のご相談を承っています
■役に立つ無料コンテンツ配信中
■ブログの過去記事