出向によって、賃金や休日、労働時間などの労働条件が変わることは考えうる状況です。よくある例で言うと、今の会社(出向元)とは違って土曜日も出勤しなければならない、といったこともあるでしょう。
出向先での労働条件が出向元に比べて低下することが見込まれるとき、社員にとっては不安があるでしょうが、会社としてはなんとかなだめすかして我慢してもらう・・・しかないのでしょうか?
もしそうだとすると、出向先での社員のモチベーションが落ちてしまうことが懸念されます。さらに社員に出向を拒否されることになれば、事態はこじれる一方です。
こんなとき、社員の不安感を取り除いて出向先でもパフォーマンスを発揮してもらうために、会社はどのように対応するとよいのでしょうか。
今回は、出向による労働条件の低下に対して会社が行うべき是正措置についてみていきたいと思います。
出向による労働条件の低下、会社の対応は?
出向によって労働条件が低下するといっても、さまざまなケースが考えられます。それは裁判例からもみてとれます。
たとえば次の2つの裁判例の概要をみてみましょう。
〇労働条件が悪くなるだけで有利な事情がひとつも見当たらない小規模会社への出向
- 出向元とは1ケ月に土曜休日2日の差
- 出向先は極端に小規模
- 出向期間満了後、出向元への復職に確実な保障がない
- 出向元としては、この出向が社員本人に及ぼす前記の不利益を解消するだけの条件を示すべき
- この条件を提示することなく本人の意向を無視して行った出向命令は、組合との協議を経たとはいえ、信義則上認めにくく、効力は生じない(出向命令は無効)
〇労働条件が多少悪くなる出向
- この出向は社員に経済上、生活環境上の不利益をもたらしているが、賃金の減少はわずかで、日常生活に直接影響を及ぼすほどのものではない
- 出向先の賃金昇給率は出向元に比較して高いので、賃金の減少は将来において十分回復する可能性が伺える
- その他の生活上の不利益も特段重大なものとは認められないため、出向命令は有効
つまり、労働条件の重要性を考慮して、社会的にみて社員にとって受け入れるべきものといえるかどうかによって、出向命令の効力が判断されると考えられます。
実務における不利益を解消する方法
先の裁判例をみても、出向元企業には社員の受ける不利益を解消するだけの条件を示すことが求められます。
ですから実務のうえでは、労働条件の格差を是正するための打つ手を用意することになります。
金銭的な補償が一般的ですが、補償金額の決定方法は企業によって異なります。
出向元・出向先の企業間における労働条件の差を考慮して、それらを包括して出向手当などの形式で補償するケースが多いようです。
冒頭のように、出向元企業とは異なって土曜日も出勤しなければならないといったとき、出向先でその出向社員だけを土曜出勤を免除することは、他の社員との関係性を考えると無理があるでしょう。
そこで土曜出勤を休日出勤扱い(3割5分増の賃金)にして、金銭的に補償することが考えられます。
出向元企業がこのような金銭的な是正措置をとらなければ、出向命令が無効となる可能性は高くなるでしょう。
また、労働条件が著しく悪くなって社員が到底受け入れられないといった場合には、出向手当の支給をはじめ労働条件の悪化を解消するのに必要な措置を講じるだけではなく、社員の不安を解消する具体的な措置をとらなければ(出向元への復職の保障、出向先の状況の定期的なヒアリング面談など)、出向命令が無効とされる可能性はあり得ます。
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出向命令が無効と判断されないよう、前述のような金銭的な措置を図ることは重要です。
けれど出向社員の不安を解消し、モチベーションの維持を促すことができるのは、実はお金だけではありません。
「君には期待している」「いつも〇〇〇で頑張ってくれているね」
会社(社員にとっていちばん身近なのはリーダー)からのこんなひと言の積み重ねが、社員のやる気に火をつける原動力となることを忘れずにいたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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