「妊娠したのですが、残業など今まで通り乗り越えられるか不安があります・・・急に体調を崩したら周りの皆さんが困りますよね・・・」
妊娠した社員からこれからの働き方について相談があったとき、悩まれる管理職の方もいらっしゃるでしょう。
労働時間や休暇面もさることながら、「仕事のストレスが身体に影響しては大変」との配慮から、負担の軽い仕事内容への変更を検討することもあるかもしれません。
現場をマネジメントする立場であれば、妊娠した社員本人のやる気と体調を考えながら、どのような点に気をつけるべきなのでしょうか。
そこで今回は、女性社員から妊娠の報告を受けたとき、会社として特に留意すべき下記の2点について詳しく確認していきたいと思います。
- 負担の軽い仕事への変更や人事異動(配転)
- 妊娠の報告を受けたときの対応
軽易な業務への転換とは
労基法では、「会社は妊娠中の女性社員が請求した場合には、他の軽易な業務に転換させなければならない」と規定しています。
本人から請求がない限り、会社として軽易な業務に転換させる必要はないということであり、また、業務上の必要性がないにも関わらず本人が望まない配転をすることはできません。
上司としては本人の体調への気遣い、親切心から、「身体が大変だろうから、これからは〇〇の業務はしなくていいよ」と声をかけたくなるかもしれませんが、本人のやる気やチャレンジ精神を失わせたり、会社への甘えを助長してしまうおそれもあります。
体調が辛いなら本人から負担の軽い仕事への変更を求めるようアドバイスしたり、あくまでも本人の意向を聞きながら決めるようにすることが大切です。
また、「軽易な業務」とはどんな業務をいうのかについては、特に法律で決められていませんので、個別の状況に応じて検討することになります。
軽易な業務への転換の請求があったときには、どんな業務に転換させてほしいのか、本人の意思を確認しながら考えることがポイントです。
軽易な業務への転換、人事異動(配転)の留意するべき点
とはいえ、本人が希望する業務をすでに他の社員が担当していて交替が難しかったり、そもそも本人の希望に沿う軽易な業務が社内に見当たらないこともあるかもしれません。
こんなとき、会社が軽易な業務を新たに作ることまでは、労基法上求められていません。
そこで会社には本人と緊密なコミュニケーションをとって、個々の事情に応じた適切な業務を見出すよう最大限の努力が求められます。
どうしても適切な業務がないときは、現在の業務で働く時間を短縮するか、休業で対処せざるを得ないこともあるでしょう。その場合、賃金の減額が考えられますが、労基法が定める軽易な業務への転換は、従前の賃金額を保障しているものではありません。
よって、転換後の業務内容、賃金体系、他の社員に与える影響などを考慮して、本人と協議することになります。
もちろん、会社にはできるだけ賃金の減額を小さくする努力が求められます。また現場の上司にしても、賃金の減額を避けたいがために妊娠中の女性社員が無理をして現在の業務を続けることがないよう、普段からコミュニケーションをとっておくことがとても大切です。
なお、産休中または産休明けの社員に対する配転命令について、業務上の必要性もなく、本人に著しい不利益を与えることになる場合は、人事権の濫用として無効になります。会社として、配転の合理性、育児などで著しい不利益を与えることにならないかという点に注意が必要です。
妊娠の報告を受けたときの対応で留意するべき点
女性社員から妊娠の報告を受けたとき、上司をはじめ会社側には、出産しても時短勤務ではなくほかの社員と同じくらい働いてほしい、管理職候補として期待している、といった様々な考えがあるかもしれません。
そのため報告を受けて第一声で「予定日はいつで、いつまで休むの?」と矢継ぎ早に返してしまうと、本人には逆に「会社に迷惑をかけている、会社に必要とされていない」と感じさせてしまいかねません。
人手不足の時代、大事な戦力として今まで働いてきた女性社員を、簡単に退職に向かわせるべきではないでしょう。
妊娠の報告を受けたときには、まずは「おめでとう、身体を大事にしてね」との祝福といたわりの言葉をかけたいものです。
そこから業務の調整、本人のこれからの働き方の希望について聞きながら、復職への期待を伝えることです。会社に必要とされている、と本人に感じてもらうことが、働き続けるうえでのモチベーションにもなります。
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育児中の女性社員においても、そのキャリアに対する考え方は様々です。
負担の軽い仕事に慣れてチャレンジする意欲を低下させてしまう人もいますし、会社側の配慮が行き届きすぎて、「育児中は簡単な仕事しかさせてもらえない」とやる気を失ってしまう人もいます。
配慮をそれほど必要としていない社員、やる気のある社員などに対しては、責任の重い仕事を任せることも、本人たちのモチベーションを保つために必要かもしれません。
大切なのは、その人その人の事情に応じた対応を心がけることだと思います。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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