噂レベルだが、就業時間中に会社のパソコンでデイトレードをやっている社員がいるらしい。デイトレードは午前中の10分間程度だから会社にバレないし、結構儲かる、と自慢しているそうだ。就業時間中に、会社のパソコンを使って株取引を行うなんて、相当な懲戒処分にあたるのでは?とはいえ、噂の真偽を確かめないと。会社としてどんな対応をとるべきなのか・・・ (総務部係長 談)
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就業時間中に行われた株取引が噂のとおり事実なら、懲戒処分を考えるべきなのか、またどの程度のものにするべきなのでしょうか。
そこで今回は、会社の取るべき対応についてポイントとなる下記の2点について詳しく確認していきたいと思います。
- 就業時間中の株取引を会社はどう考えるか?
- 懲戒処分の程度をどう考える?
就業時間中の株取引を会社はどう考えるか?
さて、就業時間中の株取引。一日の値動きの中で売買するデイトレードでは、分単位、秒単位の値動きで売買を繰り返しますが、「ほんの朝10分程度しかやっていないから、仕事には支障をきたしていない」と、本人からすればこのような反論があるかもしれません。
けれど社員は、就業時間中において会社の指示命令に従って働く義務を負っています。就業時間に私用(株取引)を行うことは、労務提供義務を果たしていないことになりますし、職務専念義務にも違反します。
なお、私用によって仕事をしなかった時間については、ノーワーク・ノーペイの原則によれば会社に賃金を支払う義務は発生しません。
ただし、社員の不履行の程度(仕事をしなかった時間)を立証する責任は会社にあるので、ノーワーク・ノーペイの原則を適用して賃金の一部を差し引くことは、現実的には、難しいといえるでしょう。
以上をまとめると、株取引を就業時間に行った以上、懲戒処分の対象となる可能性はあるでしょう。
ただ、ほんのわずかな時間も気を抜かず、仕事以外のことに気を取られてはいけない、というのでは人間誰しも無理があります。
ですから、一定の程度を超えてはじめて法的な問題が生じることになります。
懲戒処分の程度をどう考える?
前段のように、どの程度の懲戒処分とするかは、私用(株取引)を行った時間などを踏まえて、慎重に検討する必要があります。
懲戒処分を簡単に言うと、「職場のルールを守ろうとしない社員に対して教育・指導するための制裁罰」となります。
制裁罰の性格をもち、刑事処罰にもたとえられることから、懲戒処分を行うには次のような要件を満たす必要があります(詳しくは、過去記事「職場をぎくしゃくさせない懲戒処分への対応」をご参照ください)。
- 就業規則に明記された懲戒事由であること
- 就業規則に明記された懲戒処分の種類であること
- 行為と処分が均衡していること
- 処分手続きを厳守すること
- 二重処分禁止の原則を守ること
今回のケースで、最も問題となるのは上記の②です。つまり、懲戒事由に対応した種類の懲戒処分でなくてはならず、不当に重い処分を科すことはできません。就業時間中の株取引によってかなり利益を得ている、と聞くと重大な問題行動のように感じられるかもしれません。けれど検討すべき重要なポイントは、「社員の行為で企業秩序がどれだけ乱されたか?」ということです。大きな利益を得たかどうかは結果論にすぎません。
株取引にかけた時間や社内への影響・混乱という点をみると、その程度にもよりますが、基本的には比較的軽めの処分(けん責程度)にとどめることが妥当だと考えられます。
会社の対応としては、最初に軽い懲戒処分から始まり、それでも改められずに問題行動が繰り返されるのであれば、その後は段階的に懲戒処分の程度を重くしていくことを考えておいたほうがよいでしょう。
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そもそも、なぜ仕事中なのに株取引など私用に勤しむ社員が出現するのでしょうか。
その理由のひとつとして、会社の業績を伸ばしていくために必要な、所属する部門のミッション・方向性についての共通認識を得られていないことが考えられます。
当事者意識を持って、部門の目標から個人のミッションに落とし込んで、何をやるべきなのかを理解できていないのかもしれません(だから仕事は他人事で、就業時間を私用にあててしまう)。あるいは、担当業務で何か行き詰っているのかもしれません(だから仕事以外のことに逃げてしまう)。
今回のような就業時間中の私用の発覚を、上司と部下の関係性、人材マネジメントのあり方を考える良い機会として、職場の信頼関係を築いていきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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