「届出を忘れていて、要件に該当する手当をずっともらっていません。以前の分の手当をもらえませんか♪(*´з`)」・・・本人の落ち度に、会社側が遡って支給しないといけないの?(総務の担当者談)
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就業規則(賃金規程)に定められた手当の支給条件に合致した場合には、社員が申請用紙に記入して提出し、会社は本人に手当を支給する・・・という流れが通常は考えられます。
ところが、こどもが生まれたのに届出をしてこない人もいて、社内の世間話などをキャッチして、慌てて担当者が本人に確認する・・・といったっケースもよくあるようです。届出ミスに対して担当者のファインプレーがいつも実現するとは限りませんよね。
そこで今回は、社員の届出ミスがあった場合、会社は遡って手当を支給するべきなのか、詳しく確認していきたいと思います。
賃金請求権の時効と会社の支払い義務
労基法の賃金とは、社員の労働の対償として会社が支払うもののことをいいます。
家族手当、住宅手当、通勤手当などは、社員の個別の事情によって生活費負担が大きくなるものについて、会社が人材確保の視点から支給するものですから、労働の対償ではありません。
ただし、これらについて就業規則で支給する基準が明確に定められていて、会社が支払い義務を負う場合は賃金として解釈されます。
この賃金(退職手当は除く)の請求権は、2年間行わない場合においては、時効によって消滅することと法定されています。
つまり、社員は2年前までさかのぼって未払いの賃金を請求することができることになります。
冒頭のように時効消滅する前に社員から「(たとえば)家族手当をもらっていなかった」と手当の支払い請求があった場合、賃金請求権の消滅時効は2年間であることから、会社には2年前までさかのぼって支払う必要があります。
なお、この場合の時効の起算日については、支給条件を満たしたとき(家族手当ならこどもが生まれたときなど)に諸手当の請求権が発生する、と一般的には解釈されます。会社への届出は、諸手当の請求権が発生したことによって、その支払いを求める請求行為ということになります。
実務的にどう対応するか
消滅時効にかかる前に賃金請求権を受けた場合、たとえ2年分の支払い金額が多額になろうと、会社は支払う義務があります。
金額の多寡は関係ないのです。
「2年間も言ってこなかった(請求してこなかった)のだから、権利を放棄したとは考えられないのか?」との意見もあるかもしれません。
確かに、賃金債権の放棄は自由な意思に基づいて行われたと認められる場合には有効となります。
ただし、冒頭の申出のように「届出の手続きを忘れていた」という場合には、権利の放棄の意思があったとは考えにくいですよね。
会社に支払い義務があるとはいえ、所定の届出を行わなかった社員のミスにより、会社の事務手続きが煩雑になることは事実です。不注意によって他の人の手を煩わせることは、生産性の高い職場のあり方に反した行為といえます。よって、社員自身にも不注意や怠慢があることを自覚させたうえで、本人の自由意思に基づいて未払い分の一部を放棄させることも、会社として考えうる措置でしょう。
担当者が自らの仕事への責任から、できる限りの努力をもってしても、該当者のミスによって手当に関する届出が行われないケースがあまりにも多いのなら、このような措置をとる可能性を事前に社員へアナウンスしておくことも方法のひとつです。
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そもそも諸手当は、「会社が社員の生活のことを考慮している」という前向きなメッセージがこめられたものです。
支給事由が新たに発生した、もしくは変更になったにも関わらず、社員からの申請手続きがない・・・そういった事態が頻発するということは、社員にとっては手当の支給が「当たり前のこと」になっているかもしれません。
つまり、諸手当の目的、意義が社員に伝わっていない可能性が考えられます。
社員の主体的な行動によって所定の届出がスムーズに行われるよう、諸手当の意義を改めて伝える機会なのかもしれません。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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