「当社もやっと完全週休2日制になって休みが増えたのは社員にとって良いにしても、年休を取るのが難しくなってしまいました。取れなかった年休を貯金みたいに積み立てることはできませんか?」
取れずじまいの年休が積みあがるのが心配なので、このようなご相談をいただくことがあります。年休取得率はアップさせたいけれど、やり残しの仕事が増えてしまうのも避けたいですよね。
いまの時季は夏休みもあるので、仕事を滞りなく進めることを考えると、さらに年休取得が難しくなる、といった事情もあるでしょう。
このような問題への対応のひとつとして、「年休の積立制度」というものがあります。
そこで今回は、年休の積立制度とはどういったものなのか、また運用上の注意点について詳しく確認していきたいと思います。
年休の積立制度とは
年休の積立制度は、任意の制度であり、これを認めるかどうかは会社の自由です。就業規則に規定することによって、制度を採用することができます。
具体的には、時効によって2年間で消滅する法定の年次有給休暇の残日数を、一定の日数に達するまで積み立てることを認めるという制度です。
積み立てる年休は、法定の年次有給休暇の日数とする場合が多いですが、会社で法定を上回って付与している年休日数も積立の対象としてもかまいません。
これは年休にかかる時効の効力を手放す、ということではなくて、あくまでも時効消滅した日数の救済を目的としています。
ただし際限なく日数を積み立てると、職場での業務の調整が難しくなります。また、管理する手間など会社に過度の負担を強いることになるので、積立可能な一定の上限日数を決める必要があります。一般的に30~60日を上限の日数としている場合が多いようです。
運用面で気をつけること
積立制度によって積み立てた年休は、通常の年休とは趣旨が異なるので、職場の調整のためにもまとめて取得するときの使用目的の事由を限定しておくことが必要です。
積み立てた年休をまとめて取得する人が大勢いるために、通常の年休をとることが難しくなっては本末転倒だからです。積立制度があるからといって、有効期間中の(時効2年間のうちの)年休の取得を制限することになってはいけません。
また、退職にあたって積み立てた残日数の買い上げを認めると、将来の買い上げを見越して有効期間中の年休の取得を抑制することにつながってしまうおそれがあります。よって、これを認めるケースは見受けられません。
あくまでもこの制度の目的は、消滅した年休の救済であり、ここから逸れないことが運用上のポイントといえます。
一般的に使用目的の事由として挙げられるのは、下記の内容が多いようです。
- 本人の疾病による長期療養
- 長期にわたる家族の介護
- 育児休業の延長
- 自己啓発(国内外の留学、資格取得など)
- その他の会社が認めた場合(転職支援など)
1)~3)について、仕事に一生懸命になって休みをとらない、自分の病気や家族のもしもの時に備えて年休を残しておこうとする社員が多いとは、よく耳にするお話です。一定の日数積み立てた年休があれば、有効期間中の年休を残しておこうとする社員の意識も変わるかもしれません。
4)について、いつも仕事ばかりに追われていると、だんだんと発想力や創造性が低下することは否めません。まとまった期間、会社や仕事から完全に離れていつもと違う体験をすることで、新しいアイデアの獲得が期待できます。
5)について、最近では退職金の代わりとして転職支援を含める企業もみられます。
就業規則に規定しておくべきこと
前述のとおり、年休の積立制度を選択するかは会社の自由であり、これを実施する場合には就業規則などへ規定することになります。
そこで次のような項目について、規定しておくことをお勧めします。
1)制度の目的
・あくまでも制度の目的は、時効消滅した日数の救済であること
2)取得事由
・通常の年休とは趣旨が異なるので、職場の調整のためにもまとめて取得する際の、使用目的の事由を限定しておくこと
3)取得手続き
・まとまった長期の休みとなるので、本人の病気療養の場合を除き、1か月前までに申し出ることにする、など
4)制度の対象者
・制度の目的は時効消滅した日数の救済なので、その勤務の貢献に報いるとして、たとえば勤続10年以上の社員を対象とする、など
5)積立日数の上限
・一度取得することで限度の日数以下になったときは、上限に至るまで再度積み立てを認めること
これらの項目の内容について考えることは、積立制度のあり方自体を考えることに他なりません。会社の事情、職場の実態にフィットした内容を検討することが大切です。
まとまった休みがとれる制度をつくることで、仕事の配分や分担を見直し、調整するプロセスが進みます。
たとえば、仕事の進め方に関する情報をチーム全体で共有できる、上司の休みによって部下が業務を代行することで人材育成の機会となる、実はやる必要のないタスクが発見される、といったことが期待できます。
制度づくりをきっかけに、業務の効率化やコミュニケーションの活性化へつなげたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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