「当社の年休申請届には、年休の利用目的を書いてもらう欄があります。そもそも、会社は社員がどんな理由で年休をとるのかを聞いてもいいのでしょうか?」
企業の人事担当の方から、年休の申請用紙にまつわるご質問をいただくことがあります。「年次有給休暇の利用目的」の記入欄があるフォーマットを使われている会社は多いのではないでしょうか。
ところが、「利用目的を記入するのは強制なのか」「プライベートのことに会社が口を出すのか」といった社員の不満の声への対応に悩まれるケースは多いようです。
結論から申し上げますと、利用目的の記載欄を設けること自体には問題はありませんが、運用次第では違法となる場合もあります。
そこで今回は、年休の利用目的を社員に書かせてもいいのかどうかについて、詳しくみていきましょう。
会社が年休取得を制限できるときとは?
年次有給休暇は、法定の要件を満たすことで社員に法律上当然に発生する権利です。社員の年休取得の申請によって、はじめて発生するものではありません。また、社員が年休をどのように利用するかについて、法律上の制限はなく、社員の自由とされています。
したがって就業規則において、利用目的を会社に申告させ、その利用目的の申告がないことを理由に年休を取らせない、と規定するのは違法となります。
会社は、利用目的がレジャーやスポーツ、通院、資格取得のための勉強など、どのようなものであろうと、職場の状況が年休取得によって「事業の正常な運営を妨げる場合」でない限り、社員が申請した通りに休暇を与えなければなりません。
けれどストライキを目的とした場合(年休の利用目的を申し出る必要はありませんが、客観的にみてストライキのために年休を利用しようとするものであることが判明した場合)には、会社は社員の年休を制限することができます。
社員が心身をリフレッシュさせて働くモチベーションを高める、という年休制度の本来の趣旨に反するからです。
たとえば、職場の正常な運営を阻害することを目的に、集団的に年休届の提出があり、職場を離脱して仕事を放棄・・・といったようなケースです。建前としては年休の取得ですが、実態としてはストライキに他ならないからです。
このような場合の年休申請は、正当なものではないので、会社は拒否できることになります。
利用目的の記載欄の運用のしかた
前段の通り、年休の利用目的については法律上で何の制限もありませんから、社員が自由に利用できるものです。社員は、会社に利用目的をいちいち申し出る必要はありません。
また会社にしても、年休利用の目的がストライキである場合を除いて、利用目的いかんで年休取得を妨げることはできません。繰り返しになりますが、社員が年休の申請用紙に利用目的を記入しないからといって、取得を認めないというのは違法になります。
とはいえ、年休の申請用紙に利用目的の記載欄を設けて、任意で記載を求めること(社員はそこに記入してもよいし、しなくても差し支えない)は、それ自体は違法ではありません。
ただし、社員が記入した利用目的によって、取扱いを不当に変えることのないことが大前提となります。なぜなら、利用目的を社員に書いてもらうことで、もし同じタイミングでたくさんの社員から同時季に年休取得を希望する届出があったとき、利用目的の重大性や緊急性の程度によって、優先的に年休取得を認める人、別の時季に変更してもらう人(会社の時季変更権の行使)を決めることができるからです。職場の仕事を滞りなくスムーズに進めることと、本当に年休取得を必要とする社員の希望をかなえること、これらの両立を図ることができます。
また、年休取得にかかる代替要員の確保が難しいとしても、社員が書いてきた利用目的の内容いかんでは、「そういった理由で年休を取る必要があるのなら、代わりにその分の仕事を僕がやってもいいですよ」と他の社員から申出があったり、周りの社員の協力で代替要員が補充できるかもしれません。このような観点からみても、年休取得の申請用紙で利用目的の記入を求めることは適法とされています。
以上をまとめると、年休取得の申請用紙で利用目的の記入を「なるべく書くこと」という程度で求めるのであれば問題はなく、時季変更権の行使を判断するうえでも、適法となります。
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「年休を取らせないようにするために利用目的を書かされる」
「自分たちを縛ろうとして、会社は社員のことを信頼していないのではないか?」
・・・年休届に利用目的の記入欄があることで、こういった誤解を社員に与えているとしたら、本来の意図と大きくかけ離れていますよね。
「年休申請が同時季に重なったとき、お互いが譲り合うため」「仕事をストップさせず、事情のある社員がきちんと休めるように」という利用目的の記入を求めることの本当の意図が伝わると、きっと社員も納得して行動に移すはずです。
前向きでポジティブなメッセージなら、人は努力しようと思うからです。
みなさんの会社では、社内のさまざまな制度について、本来のポジティブな意図を社員にわかりやすく伝えることができているでしょうか。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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