「新入社員も入ってきたことだし、うちのチームリーダーたちにマネジメントに必要な法律の基礎知識を身につけてもほしい」
入社や人事異動の季節である春、部下をもつにあたって必要な法律上の知識を身に付けさせたい、と考える経営者、人事担当、上司の方は多いようです。
このご時世、部下の人事評価を行うときに知識が足りないためにセクハラやパワハラ、マタハラとなってはいけないから、とのことでした。
そこで今回は、ハラスメントにならない人事評価のポイントとして、下記の3点を詳しく確認していきたいと思います。
- 人事評価を正しく行うための条件
- 部下の年休をどう取り扱うか?
- 妊娠、出産した社員への対応
人事評価を正しく行うための条件
人事評価は人間が人間を評価するものなので、ともすれば恣意的になりかねないことは否定できません。
だからこそ、正しい評価が行われるよう制度として確立する必要があります。
まずは、公正に人事評価を行うための条件を下記の表で整理してみましょう。
正しい人事評価を行うための条件
|
内容・効果 |
1)評価項目を明確にする | どのようなポイントに着目して、日頃の部下の言動をみればよいかがわかる。 |
2)評価の基準を明確にする | 1)の項目の評価にあたって、判定基準を設けることで、評価者のモノサシをそろえることが できる(恣意的な判断を防げる)。基準は合理的なものであること。 |
3)評価者の体制を整える | 評価者を複数制(1次評価者、2次評価者、最終評価者等)などにすることで、修正や調整を加えて評価の客観性を高めることができる。 |
4)評価者訓練を繰り返す | 評価者の間で見方に偏りや差異のないよう、価値判断や意思を統一することができる。 |
5) 評価結果の全体的な検証を行う | 全体のバランスをみて、評価結果に著しい偏りがないか、合理的なものであるかなどを確認できる。 |
1)の評価項目や2)の評価の基準について、評価者にはもちろん明示する必要がありますが、他の社員(被評価者)に公開するかどうかは、企業の自由です。企業の文化によるところが大きいと思います。
たとえば、社員間のコミュニケーションがあまり密ではない、どちらかというと結びつきが弱いと感じられる職場だったとします。
この場合、どんな行動をとって、どんなアウトプットを出すと、どんな処遇にするかということを、ひとつひとつ社員に明示するほうが、評価に対する社員の納得度がアップするでしょう。
部下の年休をどう取り扱うか?
部下が年次有給休暇、生理休暇、産前産後休暇、育児休業など、法律で定められた休暇(法定休暇)を取得したとき、どう取り扱うべきなのか悩む、という声を評価者から伺うことがあります。休暇を取った人と取っていない人では、明らかに働いた日数(稼働日数)が違うからです。
これが、もし社員自身の都合や事情による欠勤、早退、遅刻などであれば、もちろん人事評価でマイナス評価をしなければなりません。
けれど法律上、精皆勤手当や賞与の支給算定で、年休を取得して休んだ日を働かなかったとみなして取り扱うことを禁止しており、社員の不利益になる評価はできません。
また、「法律上の権利を行使したことで経済的利益を得られないとすることは、権利の行使を抑制することにつながるので公序に反して無効」という趣旨の判例もあります。
このような判例や法律の趣旨から、年休、生理休暇、産前産後休暇、育児・介護休業、労災による休業などについては、正当な権利の行使になるので、社員の不利益になる評価は許されない、ということになります。
そこで、「休んだ人が得をする(休めない自分は損だ)」といった妙な雰囲気が職場にまん延しないように、
- 休むときには自分の仕事の引継ぎを必ず行う
- 周りのスケジュールを考えながら代替要員を確保する
- 仕事の引継ぎをスムーズに行うために、各自の仕事内容を日頃からチームで共有する
- そもそもやる必要のある仕事なのか、常に見直す習慣をつける
といった、チームや職場全体の生産性アップにつながる仕組みづくりをぜひとも考えたいですね。
妊娠、出産した社員への対応
最近の人事評価に関するトピックとして、マタニティハラスメント問題が取り上げられているのは、みなさんご周知の通りです。
結婚、妊娠、出産を理由に、人事評価や処遇で社員が不利益を受けるような取扱いは、法律上禁止されています。
妊娠中の社員を軽易な業務に転換する際に降格させた事案について、最高裁では、
- 降格する合理的な理由があったとき
- 職場において特段の理由があったとき
は、前述の禁止する取扱いにあたらない、との判決を出しています。
つまり、
- この措置によるメリット・デメリットの内容や程度を考えたうえで、会社から本人に説明があったのか?
- 本人の意向や自由意思によって、降格を承諾したのか?
- 降格させずに軽易な業務に異動させると、人員配置がうまくいかず仕事に支障をきたすのか?
といったことがポイントになります。
結婚、出産、子育てといったライフイベントによって、社員本人が好むと好まざるにかかわらず、アシスタント、サポート職の処遇を選ぶこともあるでしょう。
一時的にそういった選択をしても、状況の変化によって元の処遇に戻りたいとの意思を受け入れる体制や仕組みが、これからますます必要な時代になってきます。働き手世代が減少し、人材獲得がますます厳しくなってくるからです。
ポリシーをもって人材マネジメントを行っていることは、これから企業のステイタスになってくると思います。採用活動において、人材獲得力を高めるアピールポイントになるからです。また、今いる社員の定着率アップにもつながります。
いかにハラスメントにならず公正な評価ができるか、どれだけ社員の納得とやる気につなげるか、考えていきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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