「今日から新人がうちの部署に配属される。いまの若者たちに新人指導がパワハラと受け取られないか心配だ・・・」
上司や先輩社員は、単に部下へ業務命令をすればよいというものではなく、就業規則を守ってコンプライアンスにかなった命令を出し、職場を円滑にマネジメントする責任と義務があります。その他にも仕事のやり方、ルールやマナーについての指導・教育が求められています。
そのため部下のモチベーションを落とさないよう、どんな言動がパワーハラスメントとなるのか、事前に把握しておきたい管理職、上司の方はたくさんいらっしゃることだと思います。
そこで今回は、部下のマネジメントにまつわる次の3点について詳しく確認していきたいと思います。
- なぜ会社がパワハラ対策をしないといけないのか
- どこまでが教育指導でどこからがパワハラになるのか
- どんな言動がパワハラになるのか
なぜ会社がパワハラ対策をしないといけないのか
職場におけるパワハラの防止は、会社の義務とされています。
会社には、社員が働きやすいよう職場環境に配慮して、それを維持する義務があるからです。
近年の判例から、物理的な職場環境への影響(有害なガスや粉じんなど)と同じように、人間関係による職場環境の悪化に対しても、会社は社員の働きやすい良好な職場環境をつくる義務を負っている、と考えられるようになっています。
つまり、社員同士や上司と部下の関係性で、許容範囲を超えたトラブルやあつれきから働きにくい職場環境となり、やむなく退職せざるをえない社員が出たり、メンタル疾患に至るケースが発生した場合には、会社として改善していかなければなりません。
とはいえ、人間関係のトラブルで働きにくい環境になっている、といっても物理的な現象とは違って目に見えるものではありません。また、主観的で個人的なものでもあるので、人事・総務担当者が気付くのに遅れたりと、迅速な対応をとるには難しいところもあります。
ですから現場の上司や先輩社員に求められるのは、少しでも職場の雰囲気に違和感を覚えたり、噂を耳にした場合には、人事・総務担当者とチームを組み、相談しながらいち早く対策を講じることです。
どこまで教育指導でどこからパワハラ?
法律で解雇には厳しい規制があり、いったん採用した社員は会社が指導・教育するべきであって、能力がないという理由だけで安易に解雇してはいけないとされています。
(そうした会社の努力にもかかわらず、是正されずに職場の秩序を乱し、経営に影響を及ぼすとき初めて解雇が認められる。)
ですから、会社は上司や先輩社員を通じて、部下を教育し、時には叱ってでも適切な仕事をさせなければなりません。
そして社員には、就業規則に従って、職場でよい関係性を築きながら充実した仕事を行う義務があります。上司や先輩社員の業務命令や教育指導には、それが合理的な命令である限り、従わなければなりません。
けれど業務命令が社会通念上相当な範囲を超えて、
- 合理的な理由なく、肉体的にも精神的にも過酷な苦痛を伴う
- 侮辱的で脅すような言葉がけがある
- 懲罰や報復などの不当な目的がある
- リストラの一環として、本人の意思に反して退職勧奨から退職に追い込むものである
- 職場のいじめ、仲間はずれなど不当な差別がある
これらのような事態がある場合には、パワハラとして違法となります。
以上をまとめると、指導・教育を全くしないのは上司として職務怠慢になりますが、その指導・教育が企業社会における通念上相当な範囲を超えるときは違法行為となる、ということです。
どんな言動がパワハラになるのか
前段のように、パワハラとは、職場関係での優位性を利用し、不当な命令を強要したり、侮辱的な言葉や暴力的な行為で心身に苦痛を与え、その職場で気持ちよく働く機会を妨げることをいいます。
上司から部下へのいじめや嫌がらせを指すことが多いですが、先輩・後輩や同僚との間、さらには部下から上司に対して行われるものも含みます。
つまり、パワハラは職場で優位な立場にある者から行われるものですが、この「職場内の優位性」は「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識など様々な優位性が含まれることになります。
では参考までに、裁判でパワハラとして不法行為とされた例をみてみましょう。
- 部下に対して、社内で「アホ」「ボケ」「カス」「死ね」などの暴言を繰り返したり、「やる気がないのなら帰れ」と大声で怒鳴りつける。
- 新入社員としてはよくあるミスだが、本人の不注意から繰り返すことが多かったため、「何でできないんだ」「何度も同じことを言わせるな」「そんなこともわからないのか」「俺の言っていることがわからないのか」「なぜ手順通りにやらないんだ」等、周囲に他の社員がいるいないに関わらず、5~10分程度、大声で強い口調で叱責。ミスが重大な場合には、気持ちが高ぶって「馬鹿」「馬鹿野郎」「帰れ」などという言葉を発することもあった。
上司(先輩)としていくら注意しても変わらない、直らない部下への指導が厳しくなることは当然考えられますが、それを受ける部下にとってはいじめと受け止められる場合があります。
そこで大切なのは、「上司(先輩)として何ができるか」「部下(後輩)の職業人生をどう考えるのか」と、いつも能動的なエネルギーで部下や後輩に向き合う姿勢をみせることです。「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれませんが、前向きなエネルギーは相手に伝わります。
そして、部下となる社員にとっては、自分のいま現在ではなくこれからの可能性をみて、ハードルが高い課題にも惜しみなく教育・指導してくれる上司や先輩は誰であるかを、しっかり見極めることが重要でしょう。
春はたくさんの出逢いがある季節です。職場で出逢った人間関係を、自分を成長させてくれるものとして、よりよいコミュニケーションをとっていきたいですね!
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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