「社員親睦のイベントを全員参加としたいのですが、休日に開催すると参加した人は休日労働扱いになりますか?」
春の兆しが感じられる今日この頃、社員旅行など社内イベントを計画されるエピソードを、お伺いすることがあります。
平日は仕事もあるので、社内行事を休日に開催せざるを得ないこともあるため、冒頭のようなご相談をいただきます。
問題は、社内行事は労働時間としてカウントされるのか?ということです。そこで今回は、その判断判断基準となる下記の3点について詳しく確認していきたいと思います。
- 仕事と認められるものなのか
- 単に参加するだけなのか
- 準備、運営、後始末などを担当するのか
その行事は仕事と認められるもの?
社員旅行、運動会、その他レクリエーションの社内行事が業務(仕事)と認められるかどうかは、労災保険の業務上外認定の考え方(発生した災害が労災保険の給付対象である業務上の災害にあたるかどうか)が参考になります。
労災保険の給付対象となる業務上災害には、「業務遂行性」が問われます。業務遂行性とは、社員が会社の指揮命令下にあって、業務に従事している状態を示す概念のことです。
会社の敷地内で行われる運動会の出場中に被った災害について、業務遂行性の基準を示した通達がありますが、それには次の条件をすべて満たす場合に限り、業務上の災害として取り扱うことと示されています。
- 運動会は同じ事業場または同じ企業に所属する社員全員の出場を意図して行われるものであること
- 運動会の出場当日は、出勤が必要な日とされ、出場しない場合には欠勤したものとして取り扱われること
この通達の基準は、社員旅行などその他社内行事についても同様に適用されます。
さて、話を労働時間に戻しましょう。労基法上の労働時間は、会社の指揮命令下にあって、業務に従事する時間のことです。
つまり労災補償にあたっての業務遂行性の判断と同じところをみており、先の通達の基準に沿って「業務上(仕事と認められるもの)」ということであれば、労働時間かどうかの判断ポイントは第一段階クリアとなります。
続いては、社内行事に「単に参加する一般の社員の場合」と、社内行事の「準備、運営、後始末などを職務として担当する社員の場合」とを分けて、労働時間にカウントされるかを判断します。
社内行事には単に参加するだけなのか
では、社内行事へ単に参加する一般の社員について、休日労働になるかをみていきましょう。
社内行事は、社員の福利厚生といった面もありますが、社員同士のコミュニケーションを深め、リフレッシュすることで仕事へのやる気を高め、定着率アップにつながるなど、人材マネジメントにおける重要な側面もあります。
したがって、社内行事は仕事には全く関係がなく、必要のないものと言うことはできないでしょう。けれどできるだけ参加することが望ましいとはいっても、必ずしも全員が会社に強制されて参加しなければいけないような性質のものとも考えにくい・・・。では、これをどう考えるといいのでしょうか?
そこで判断のポイントとなるのが、参加が強制されているか?という点です。たとえば行事が会社主催のものであって、全員参加が命じられており、不参加者は欠勤として取り扱うといった場合は、業務上の強制参加となり、労働時間としてカウントされます。
こういった場合でない限り、業務外と考えられ、業務遂行性は認められないことになります(労働時間とカウントされない)。
参考となるのが、社員旅行中に船が沈没して社員が死亡した事例についての行政解釈です。
これには、「本件は会社主催のものとしても、業務外のイベントと解釈するのが相当であり、よって業務外の災害である」とあります。社員旅行に限らず、他の社内行事についても同様の解釈が行われます。
よって、単に社内行事へ参加する一般の社員については、原則として業務遂行性が認められないので、労働時間としてもカウントされず、休日労働になりません。
社内行事の準備、運営、後始末などを担当するのか
では、社内行事の準備、運営、後始末にあたる担当者についてみていきましょう。
社内行事の担当者には2パターンあり、ひとつはたとえば総務担当、庶務担当、福利厚生担当など、行事の世話にあたることを本来の職務とする場合です。
もうひとつは、社員の中から任意で自由意思を募って、その世話を買って出た人が担当する場合です。
前者は自分が担当する業務内容の一環として、行事の世話に従事するということなので、会社からの業務命令に基づくものであることは明らかです。よって原則として業務遂行性が認められ、会社の指揮命令下にあるその時間中は労働時間となります。
一方、後者のように任意で選任された幹事の場合、会社の命令に明らかに基づくとは言えませんし、また自分の業務の一環ではないので当然の業務命令性は認められません。よって、社内行事の性質、その準備や運営の実態から考えなければなりません。
つまり、その行事が会社にとって必要なものであり、会社が主催者側としてその準備、運営、後始末を行わなければならないので、会社の業務として誰かに担当させなければならないものである場合、たとえその選任にあたって本人の同意により幹事などの担当者を選んだのであっても、原則として業務遂行性が認められることになります。
よって、これらの者についても労働時間としてカウントされ、その社内行事の日は例外的に休日労働となります。
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前述の通り、そもそも社内行事を実施する目的は、非日常的な体験によって親睦を深め、仕事をよりクリエイティブにするためです。
もしせっかく世話役を買って出てくれたのに、休日労働にならないなどの不利益で、社員のチャレンジする意欲を下げてしまっているとするなら、それは本当に本末転倒なことです。
気持ちよくみんなで楽しめるよう、会社としてサポートのあり方を考えたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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