「毎月、特定の人に〇〇手当を支給しているけれど、なんのために支給しているんだろう・・・」(←給与計算担当者のココロの声)
手当の目的や意義がよくわからないまま「昔から出しているのでなんとなく」支給していることはありませんか?
また、同一労働同一賃金の観点からも「なぜその手当を(正社員に、あるいはパートに)支払うのか」正社員とパートの諸手当のあり方を精査しなければなりません。
さらにいうと、諸手当のあり方を考えずに賃金制度や人事制度を見直そうとしてもあとあとややこしいことになりがちです。
そこで今回は、「諸手当のあり方」を考えるポイントとして、下記の3点を詳しく確認していきたいと思います。
- 手当を支給する目的や意義を再確認し、
- それらをよく検討した結果として手当をやめるとしたら、
- どんなことに気を付けなければいけないのか?
手当を支給する目的と意義を再確認する
基本給にプラスして支払われている手当の目的と意義には、大きく分けて次の3つがあります。
- 会社からの社員へのメッセージ
- 将来的に消滅する可能性がある支給事由への対応
- 基本給にはふさわしくない支給事由への対応
1)から3)をそれぞれみていきましょう。
まず1)について、特別に手当を出すことで、生活面にいろいろ配慮しながら処遇を考えていることを社員へ伝えようとしています。
たとえば、扶養家族の多くいる人はそうでない人よりも生活費が多くかかるので、家族手当や住宅手当を支給する場合などです。
このように手当を通じて「会社はあなたのことを考えている」とのメッセージを送ることで、社員のモチベーションアップや、安心して仕事に集中してもらうことを狙いとしています。
2)について、基本給は社員の働きぶりに対して支給されるもので、手当は支給条件に該当しなくなれば支給されなくなるもの、と一般的に考えられているのではないでしょうか。つまり手当には、「将来その支給条件がなくなる可能性のある事由に対して出すもの」という性質があります。たとえば家族手当は、扶養家族がいなくなるとなくなります。役職手当も、課長が降格となり主任になれば、その分減額となります。逆にいえば、支給条件に該当しさえすれば、どんなに人事評価が低くても不支給となることはありません。
3)について、基本給を「社員の貢献度や働きぶりに対して支給するもの」とするなら、たとえば遠方の自宅から会社に通っているために、基本給が高くなるのは理屈に合いません。また、基本給と賞与・退職金が連動している場合は、なおさら遠くから通勤するというだけで賞与や退職金がアップするのも納得がいかないでしょう。そこで基本給とは別にして、通勤手当としてかかる費用を支給することになります。
いま実際に支給している手当は、上記の1)から3)のいずれかによるものでしょうか?
どのような手当が本当のところ必要なのか、1)から3)をチェックしながら確認することをお勧めします。せっかく支給している手当なのですから、社員にその目的や意義をしっかりと伝えられるようにしておきたいですね。
手当をやめるときの手順
前段のように諸手当の目的と意義を検討した結果として、「〇〇手当は廃止して、その原資を基本給に回したほうが、社員のやる気を引き出せるかもしれない」「〇〇手当は縮小して△△手当にその原資を回したい」といった新たな方向性がみえたかもしれません。
前述のように、「月給や賞与は担当している仕事の難易度や貢献度によるもの」との考え方から、世間的には生活関連手当は一般的に縮小・廃止の方向で見直す流れにあります。
けれど、手当も労働基準法上の賃金であるため、単にカットするということでは通りません。
ですから、手当を見直して、縮小・廃止するときの手順を確認しておきましょう。
大きな流れとしては、次のようになります。
- 手当のコンセプトを確認し、縮小、再編、廃止の方向性を整理する
- 手当の縮小、再編、廃止の方法を検討する
- 手当の縮小、再編、廃止の方針を社員に説明する
- 同意しない社員との面談を行い、調整を図る
- 実施
手当を単純に削減、廃止すれば、会社が一方的に不利益変更を行ったとして法的にリスクを負う可能性があります。
比較的そのリスクが軽微だと考えられるのは、今まで支給されていた手当を廃止に伴い、その額をそのまま社員の基本給に組み入れる方法です。
基本給の序列は多少乱れますが、従来の給料額が保障されることになるため、不利益変更としてみなされる可能性はかなり軽減されます。
労働条件の不利益変更について考えておくこと
賃金は労働時間と並んで、社員にとって重要な労働条件です。
手当を縮小、廃止する場合、労働条件の不利益変更の問題に関わってきます。それが可能なのか、可能であればどのような条件で認められるのか、確認しておきましょう。
たとえば家族手当のうち、配偶者への支給をやめ、対象者をこどもに限定することに変更すると、こどもが成人したシニア社員にとってはマイナスとなります。
このように、結果として社員に対する労働条件の不利益変更となるケースがあるため、あらかじめ会社と社員の間で十分に協議を重ね、社員側の合意を得ておくことが必要です。
そこで、賃金制度も就業規則の一部なので、就業規則に規定すればいいのでは?との疑問がわくかもしれません。判例では、労働条件を変更する必要性が「合理的なもの」であれば、反対する社員の存在があったとしても、(就業規則に規定することで)不利益変更も許されています。
「合理性」については、以下のようなポイントで判断されることになります。
- 変更の内容と必要性は?
- 社員の不利益の程度
- 会社にとってどのくらい必要なものなのか
- 代償措置(バーター)はあるか
- 社員への対応や労働組合との交渉の状況
- 社会一般の状況
とはいえ、社員の同意を得ることが原則なので、簡単にあきらめず、理解してもらえるよう働きかけていく対応がいちばん望ましいと思います。
トラブルを防止する観点からだけでなく、会社の方針に納得してもらうことが、社員の仕事へのモチベーション維持につながるからです。
手当をはじめとする賃金制度の見直しは、社員の意識改革を行わないで、進めることはできません。
単に給料額を削減する、増加させる、といったテクニック的なものにとどまらずに、会社の意図をしっかり社員にアピールすることを考えておきたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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