労働契約法による無期転換制度が2018年4月からスタートしますが、みなさんの会社で準備は万全でしょうか?
無期転換とは、同じ企業において有期労働契約が反復更新されて、通算5年を超えたときに、社員の申込みによって無期労働契約に転換されるルールのことです。
「うちは契約社員が多いが具体的に何をしないといけないの?」
「うちのような小さな会社にどんな影響があるの?」
「正社員しかいないのでうちは関係ない」
企業によって無期転換にまつわる事情は異なるかもしれません。
ですが、人手不足の時代において、会社を伸ばすために人材をどのように活用していくのかを考えることは、規模を問わずどんな企業にも共通する大切なことです。
そこで今回は、企業があらかじめ考えておくべき無期転換への対応について詳しく確認していきたいと思います。
無期転換ルールとは
無期転換ルールとは、前述の通り、社員からの意思表示によって有期労働契約が無期労働契約に置き換わることです。契約期間が1年の場合は5回目の更新後の1年間に、契約期間が3年の場合は1回目の更新後の3年間に、無期転換の申込権が発生します。
対象となる通算契約期間のカウントは、平成25年4月1日以降に開始する有期労働契約です。平成25年3月31日以前に開始した有期労働契約はこのカウントに含まれません。
無期転換の申込権を行使するかどうかは、社員本人の自由選択となっています(正社員としての管理下におかれるよりも有期契約社員を選びたい、有期労働契約によって正社員より優遇された労働条件で働いている、といったケースもあるため)。
ただし、たとえば「(高額の報酬を提示して)無期転換の申込みをしないこと」を事前に合意しておくこと(事前放棄)はNGです。
企業として最も気になる無期転換後の労働条件についてですが、別段の規定がなければ、従前の有期労働の労働条件のまま、単なる期間の定めのない契約となります。無期転換ルールは、働く人が安心して働き続けることができる社会の実現を目的としていて、正社員との労働条件の違い(格差)を解消させることまでは意図していないからです。
対象となる通算契約期間 | 平成25年4月1日以降に開始する有期労働契約 |
無期転換の申込権が発生する時期 |
*契約期間が1年の場合:5回目の更新後の1年間 *契約期間が3年の場合:1回目の更新後の3年間 |
無期転換の申込権の行使 |
社員本人の自由選択 (事前放棄は公序良俗に反するのでNG) |
無期転換後の労働条件 | 別段の規定がなければ、従前の有期労働の労働条件のままとなる |
無期転換者の労働条件をどう考えるか
前段で「別途の定めがない場合、(無期転換後も)従前と同じ労働条件のまま」とお伝えしましたが、具体的に例をあげると、有期労働で「週3日、15時間のパート」をやっていた場合、無期転換後もまったく同じく「週3日、15時間のパート」となります。
では、「別途の定め」は必要ないのでしょうか。
無期転換した人材を長期間に渡って企業が雇用していくには、単なる臨時的な労働力としてではなく、その人材の能力を伸ばし、それを活かせるポジションを考えていかなければなりません。
そのため、たとえば職種や勤務地の変更が可能な契約内容に変更することは、経営面を考慮した人材マネジメントを行っていくうえで必要になるでしょう。
ですから無期転換により人材を活用したいと考えるなら、「別途の定め」として就業規則で無期転換のルール化をしておく必要性が生じます。たとえば、有期労働で「週3日、15時間のパート」をやっていた場合、無期転換後は「週5日、40時間とする」といったことが考えられますね。
無期転換者に関する就業規則への規定は、労働時間、労働日数など(詳細は下記のリストを参照してください)についてしっかり考えておきましょう。また、第1号の無期転換者が出る前、つまり来年の4月より前、に済ませておくことです(発生後に規定した場合は、改めての本人の同意が必要になります)。まさに今!準備しておきたいですね。
無期転換者の「別段の定め」として考えておくべきこと |
*労基法第89条の内容
|
無期転換者の雇用区分をどう考えるか
会社の中に無期転換者が出てくると、もちろん企業規模にはよりますが、一般的な雇用パターンとして
A)正社員(正規の社員)
B)無期転換社員(労働条件は有期のまま)
C)契約社員(有期労働契約を更新中)
D)パート社員(短時間労働)
となることが考えられます。特にCについては本人の希望によりいずれはBに転換する人、あえて無期転換を希望せずにCのままで居続ける人が混在することになります。
とはいえ小規模企業であれば、特に支障もなく、普通に滞りなく仕事が行われると思います。問題は中規模以上の企業です。マネジメントしていくうえでBとCの違いをどう考えるのか、どう仕事を割り振っていいのか、どういうポジションとして扱えばいいのか悩む場面も出てくるのではないでしょうか。
そこで人手不足の時代に人材を定着させて活かしていく、という観点から雇用区分を考えることが必要になってくるかと思います。
「雇用区分を考える」とは、仕事の内容、雇用形態、働き方など「人材活用の仕組みを考える」ということです。
ですから各社員の名称(正社員、転換社員など)や定義に細かくこだわることがポイントなのではなくて、異なる雇用区分の社員がいる、ということをまず明確にして、ではそれぞれの雇用ルールはどのように異なるのか、について考えることがとても重要です。
よって中規模企業ではBを対象とする「転換社員就業規則」を作成して、たとえば正社員への登用などを視野に入れて、求める行動パターンや働き方を考えていくといいですね。さらに中規模以上の企業では、長期雇用を踏まえ、Bを積極的に活用していくために、正社員へのステップアップを制度化すれば、これからの人材難も乗り越えていけるのではないでしょうか。
なお、このように会社のなかに社員の雇用区分が多様化する場合、それぞれ別の就業規則を作成しておくことをお勧めします。「正社員就業規則が原則として全社員に適用されるもの」として規定していたため、嘱託社員の賃金についても正社員就業規則が適用されることになる、と解釈された裁判例もあります。
一番大切なのは、単に別建ての就業規則を作成することではなく、会社を伸ばしていくために社員体系をどう位置付けるのか、それぞれが能力を発揮できる環境をどう整えていくのかを考えることです。
政府が「働き方改革」を掲げていますが、今までの雇用慣行を一気に変えるのは難しいと思われるかもしれません。
ですが、制度が変わるこのタイミングを、ネガティブにとらえるのではなくて、人材活用の仕組みを積極的に考えていくチャンスとして捉えたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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