会社には人事異動についての裁量が広く認められています。ですが、事前によく考えておかないと「なぜ今の部署で頑張っている私が異動になるのか」「経験のない仕事をイチから始めるのは無理だ」と逆に社員のやる気をダウンさせてしまうおそれも・・・
そのため会社としては、中長期的な視点で社員に働きがいをもたらす人事異動を考える必要があります。
社員が希望する仕事をやらせる(異動希望を実現させる)ことは、本人の仕事に対するモチベーションをグッと引き上げるからです。
ズバリ人事異動とは、社員の力を活かして会社を伸ばしていくために、どのように人材の配置や役割を考えるか?ということです。
そこで今回は、社員のやる気を引き出す人事異動のポイントについて、確認していきたいと思います。
人事異動のパターン
人事異動には、【表1】のように「配置転換・出向・転籍」があります。これらのルールは判例の積み重ねによって形成されてきました。
①は同一企業内での人事異動なので、基本的に社員の同意は必要ありません。会社による人事権の行使(業務命令)として行われることになりますが、その根拠は就業規則によります。
就業規則に「業務上の必要性により、社員に人事異動(転勤、配置換えなど)を命じることがある」旨の規定があることで、会社に職務内容や勤務地を決定する人事異動の命令権があると考えられています。
一方、②と③は別の会社への人事異動であり、入社時には別の会社で働くことは想定されていなかったはずなので、改めて社員の同意が必要となります(業務命令の範囲で行うことはできません)。
【表1】
① | 配置転換 | 転勤 |
勤務地の変更 例)大阪本社から東京営業所に働く場所が変わる |
配置換え |
業務内容の変更 例)商品企画から営業へ仕事内容が変わる |
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② | 出向 |
自社に所属したまま一定期間、他の会社の業務に従事 例)所属はA会社のまま、B会社で働く |
|
③ | 転籍 |
所属している会社を退職し、別の会社と雇用契約を締結 例)所属していたA会社を退職して、C会社に入社 |
社員のやる気を引き出す人事異動の伝え方
すべての企業において、一番押さえておかなければならないのは「その人事異動が社員のやる気を引き出し、成果に結びつくか?」ということです。
必要性やバランスを欠いた会社の権利濫用とみなされると、人事異動命令が無効となるだけでなく、社員との信頼関係を維持することはできません。
したがって会社には、人事異動を行う必要性と積極的な理由が問われるのです。
「会社の必要性と積極的な理由」とは、たとえば次のようなことです。
特に「なぜなら、あなたは〇〇だから」の理由次第で、社員のモチベーションが上がるかどうか決まります。
ですから人事異動を発令する際には、社員が新たな仕事にやりがいを持ってもらえるように伝えることが大切です。具体的に説明する内容をあらかじめ準備しておくことをお勧めします。
次の4点を整理しておくと、本人のやる気が高まる伝え方ができると思いますので、参考にしてみてください。(*印部分は例です。)
1)異動の必要性(会社のこれからの業務展開など)
*競合他社に打ち勝つため、今期は当社の主力商品〇〇の販路拡大により注力していく方針。
そのため営業担当者を増員する。
2)対象社員に新たに担ってほしい役割(具体的な仕事内容、求めるアウトプットなど)
*だから営業担当として△△地域の販路を開拓してほしい。今まで主力商品〇〇の開発に携わってきたマーケティングの
経験から、消費者のニーズや動向をよくつかんでいると思うので、小売店と積極的に情報交換してほしい。
3)異動の人選基準(仕事の関連性、選ばれたポジティブな理由、期待していることなど)
*入社以来の5年間、商品企画で自社ブランドを熟知してきた。次は顧客との接点を持ち、現場で生の声を聞いてきてほし
い。それを社内へ持ち帰ってくれると商品の品質向上につながり、あなた自身も多角的な視点が養える。
4)異動後のフォロー
*社長が主催する勉強会が月1回あり、積極的な指導や意見交換がある。
仕事の目的を知ったうえで仕事をするのと、知らないで仕事をするのとでは、成果の差は明らかですよね。
また意義を説明して納得してもらうことは、相手(人事異動命令を受けた社員)の視野を広げることにもなります。
人事異動で注意するべき点
社員のポテンシャルを引き出すことを意図して人事異動を行うはずが、「事務職の募集に応募して採用されたのに、営業職へ異動なんて応じたくありません」との返答を目の当たりにして、対応に悩む人事担当者もいらっしゃるかもしれません。
確かに入社時の労働契約において、「転勤なし」「〇〇職に限定」としていた場合、これらを変更するような人事異動命令を行うには、社員の同意を得なければなりません。ですから人事異動を行う際には、対象社員の労働契約書を再チェックしておきましょう。
では次に、求人広告媒体などでは従事する仕事内容や勤務地が書かれていますが、これは労働契約上、職種や勤務場所を限定したことになるのかどうかです。
ほとんどの裁判例では、募集広告で職種や勤務場所の記載があるからといって、「職種・勤務場所限定で」採用するものとはみなしていません。
ですから入社してからキャリアアップに向けた人事異動の予定があるなら、本人の心づもりのためにも、職種の変更や転勤の可能性について労働契約書に記載しておくことをお勧めします。
なお、勤務地が変わる転勤の場合、社員の生活に少なからず影響を与えるので、プライベート面を含めて考慮する必要があります。転勤に際して、家庭の事情が問題となる裁判例もみられます(重病の家族の面倒をみている社員が転勤命令を受けたケースなど)。
転勤ひとつをとっても、普段からそれぞれの社員と、家族構成や家族の健康状態などを聞けるような信頼関係を築いておく大切さがわかります。
誠実な方ほど、社員のプライベートに踏み込むことにためらいがある、と思われるかもしれません。たしかに、突然プライベートな話をすると、「何か詮索されている」と相手に感じさせてしまう可能性もあります。
まずは仕事上のやりとりから、お互いに対する理解を深めることが大事ですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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