SNSは効果的に利用するとビジネス上のメリットも大きいので、積極的な活用を進める企業もあるでしょう。
とはいえ、プライベートでのSNSの利用について、社員の不適切な投稿によるトラブルへの懸念もあるのではないでしょうか。
社員のSNS利用を制限するとトラブルの隠ぺいから対応が遅れてしまうかもしれませんし、リスクを恐れて企業がSNSを活用しないのはひとつのプロモーションの機会を失うことになりかねません。
SNSにまつわるトラブルは知識不足によるものなので、会社としては社員にSNSの特性とリスクを正しく理解してもらい、リスクをできるだけ小さくしていくことを考えるほうが現実的かもしれません。
そこで今回は、SNSのリスクを回避するために、会社がとるべき対応について確認していきたいと思います。
ペナルティーを厳しくすればトラブルは回避できる?
「社員がSNSの利用でトラブルを起こした場合、ペナルティーを厳しくしておけば、不適切な投稿もなくなるのでは?」と、思われた方もいらっしゃるかもしれません。
社員のSNS利用は業務上だけとは限りません。つまりプライベートでの行為に対して懲戒処分できるのかが問題です。一般的に、懲戒処分が有効とされるには、次の要件を満たさなければなりません。
- 就業規則に懲戒の事由、懲戒の種類・程度が明記されている
- 客観的にみて合理的な理由がある
1)について、多くの会社では「不名誉な行為によって会社の信用を害したとき」などと、懲戒の事由を就業規則に規定していると思います。けれど懲戒の対象になるのは、事業活動に直接関連があるもの、企業の社会的評価を傷つけるおそれがあるもののみと考えられています。
2)についても同様に、社員がプライベートで行ったSNS投稿に対して安易な懲戒処分を行うと、表現の自由への行き過ぎた介入とみなされます。
(特定の個人や団体の批判や、著しく不適切な表現、投稿の回数など程度によっては、懲戒処分が有効となる、と考えられます)
このようにプライベート上の行為に対する懲戒処分は厳しくチェックされるので、「ペナルティーを厳しくしておけばよい」という考えでは、根本的な問題解決につながりません。
まずリスクに対する正しい理解を
ではSNSのリスクを回避するという問題解決のため、会社がまず取り組むべきことは何でしょうか。
それは、SNSのトラブルが世の中的に多発していること、社員自身と社員が所属する会社に大きなダメージが与えられるというSNSがもたらすリスクについて、社員に正しく理解してもらうことです。
そのうえで安全にSNSを利用するため、利用の心構え、リスクの回避・予防策、トラブル発生時の対応方法を周知徹底することが大切です。
SNSの適正利用のために守るべきことを就業規則に規定しておくのも、社員の情報リテラシーを上げるためのひとつの方法です。
ただし就業規則に規定することが目的なのではありません。あくまでも社員にSNSのリスクへの理解を促し、それから身を守るためのルールが必要であることを認識してもらうことが大切です。大事なのは社員に「誰もがSNSの脅威に巻き込まれるリスクがある」、と当事者意識を持ってもらい、安全な運用を実践してもらうことにあります。
就業規則とガイドラインのリンクで社員の理解を深める
安全で有効なSNS活用のため、「利用の心構え、リスクの回避・予防策、トラブル発生時の対応方法を周知徹底すること」とお伝えしましたが、具体的な方法がわからなければ実際の行動に移しにくいもの。
そこで就業規則に定めた内容(SNS利用の遵守事項)を反映したガイドラインを作成すると、社員への意識づけもよりスムーズに進むでしょう。
注意すべき点としては、説明不足によりガイドラインを「会社がSNS利用を規制するためのもの」と誤解されないことです。SNSの利用を推奨する会社の姿勢を明確にし、リスクから社員を守るための行動基準であることをしっかり伝えましょう。
たとえば、社員がプライベートで仲間うちのコミュニケーションを楽しむつもりで、会社での出来事とオフィス風景の写真を投稿。その写真を拡大してよくよく見てみると、取引先の試作段階の新商品がわずかではあるけれど写り込んでいた…。
これが発覚すれば、取引先からのクレームや会社の信用問題に発展しかねません。社員が実名や勤務先を公開してSNSを利用していると、そのトラブルが会社に影響を与えることは十分考えられます。
そこで、ガイドラインにまとめておくとよいと思われるポイントを以下に挙げました。
SNSのメリットをビジネスに活かすためにも、社員へ継続的に教育していくことが、リスクを回避し、安全に運用できる一番の方法だと思います。
SNS利用の心構え |
SNSユーザーは、個人であると同時に会社に所属するものであることの自覚を促す。 ■発言内容に注意すること ・SNSには拡散性があること (投稿を削除してもネット上で拡散し続ける) ■発言による影響力の大きさ ・業務上の秘密 ・業務上知り得た個人情報を含む情報 ・取引先や顧客の情報 ・勤務先や顧客等への誹謗中傷 ・会社関係者、第三者などから誤解を招く、不快感を与える情報 ・・・等の情報発信をしないこと。行った場合の影響や結果の事例を紹介すると理解が深まり やすい |
リスクの回避・予防策 |
社員個人をSNSトラブルから守る、というガイドラインの姿勢を明確に打ち出す。 ・不正アプリのリスクや影響 ・情報漏えいの危険性 ・友達申請による見知らぬ人との交流は慎重になること ・プロフィールの設定や投稿時のチェックポイント (他者のプライバシー尊重、位置情報の削除など) |
トラブル発生時の 対応方法 |
クレーム、情報漏えいなど様々なトラブルが起こったときの対応方針と対応窓口を定めること。 特に法人アカウントで会社としてSNSを運用する場合は、投稿内容のチェック体制など業務フローを 整備しておく。 |
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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