これから夏に向けて暑気払いなどを名目に、社員同士の接触を増やして親睦を深めるため、レクレーションを企画する企業もあるでしょう。最も簡単なので開催頻度が高いのは「飲み会」だと思います。
とはいえ、上司と飲みに行くよりプライベートな時間を尊重したいと思う若手社員がいたり、子育て中の社員にとっては参加しづらい、など働き方の多様化や価値観の変化から、今や飲み会の機会は減少傾向にあるかもしれません。
飲み会をコミュニケーションの場にしてきた、今の管理職世代にとっては、部下のマネジメントに戸惑ったりと、飲み会でコミュニケーションギャップが発生することもあるようです。
そこで今回は、せっかくの場でハラスメントが発生しないよう「飲み会あるある」が法律に抵触しないのか、詳しく確認していきたいと思います。
飲み会への出席や芸の強要はどうなる?
会社帰りのちょっとした一杯ではなくて、新年会や忘年会、歓送迎会など「公式行事的な」飲み会があると思います。公式行事的であるがゆえに、なんとなく「参加はマスト」といった空気が社内に漂っています。
新人であれば、ちょっとした宴会芸を披露するのがしきたりになっていることも。また、「営業社員たるもの、捨て身になってどれだけ宴会を盛り上げられるかだ!」と力説する重鎮の上司もいたりして・・・
そこで「参加しない」「宴会芸は辞退したい」とたとえば新人社員から意思表明があった場合、「職場の活性化をわかっていない」「協調性がない奴だ、人事評価に反映させよう」とするのはどうでしょうか?
まず宴会への出席や一芸披露の強要は、本人の同意があればいいのですが、程度が過ぎれば「業務の適正な範囲を超えるもの」として、パワーハラスメントとみなされる可能性があります。
民事上の個別労働紛争相談の内訳をみても、パワーハラスメントは4年連続最多の相談内容になっています(厚生労働省「平成27年度個別労働紛争解決制度の施行状況」より)。
パワーハラスメントは法的な定義がなく、なかなか線引きが難しいのが実情です。けれどもともと飲み会の目的は職場の交流であったはずなのに、逆に人間関係を悪くしてしまうような火種になるのは避けたいものですね。
また「協調性がない」といっても、「会社の円滑な運営のために他の人と協力して、業務遂行を行うことが難しい」状態なのかどうかを考えなければなりません。「会社の円滑な運営のために他の人と協力して、業務遂行を行うことが難しい」とは、他の社員に迷惑をかけたり、周囲のモチベーションを下げたりと悪影響を及ぼし、会社の秩序を乱している状態のことです。
よって、飲み会への不参加や宴会芸の辞退が、「協調性がない」とするのは無理があります。
飲み会での暴言による降格はどうなる?
職場の上司や同僚とお酒を飲みながら親睦を深める飲み会。いくら無礼講とはいえ、飲み会のたびに上司に向かって「無能だ」など暴言を吐く課長。再三の注意をしても改善されず、始末書の提出で反省を促してみることに・・・。
けれどその後も飲み会での暴言が度重なるため、係長へ降格処分とするのはどうでしょうか?
課長から係長への降格はペナルティーにあたり、就業規則に規定することによって、懲戒権の行使は可能になります。
一般的に、懲戒の種類として「戒告・けん責」「減給」「出勤停止」「降格」「諭旨解雇・懲戒解雇」が就業規則に規定されていると思います。けれど飲み会での暴言は、職場外の非行なので、就業規則に基づく懲戒処分にできるのでしょうか。
この場合、飲み会の参加者が職場の上司や同僚、部下で、発言内容も仕事に関するものであるため、日常の職場での活動に直接影響を与えるものとして、懲戒の対象となります。
また課長から係長への降格は、不相応に重いものとはいえないでしょう。
このケースもせっかくのコミュニケーションの機会が、ぎくしゃくしたものになってしまっていますね。
意味のあるコミュニケーションの場へ見直すこと
冒頭の繰り返しになりますが、社員同士の接触を増やすためのひとつの手段として飲み会があったはずです。
それなのに飲み会でコミュニケーションギャップが露わになる、もしくは単に愚痴を言い合う場になっているのだとしたら、開催のあり方を見直してみる良い機会です。
確かに社員同士のコミュニケーションが減ると、日常的なコラボレーションのチャンスが失われるのも事実ですから、
- 役職や部署が異なる社員同士の飲み会であること
- 管理職と部下が一緒になる飲み会であること
- 社員をランダムに選び、5人程度で1グループとする「シャッフル飲み会」であること
といった条件をつけて、飲み会開催の補助を出している企業もあるようです。
今の時代に企業で求められているのは、チームで共同創作することです。雑談での誰かのひとことからアイデアが降ってきて、新しいサービスや既存サービスの改善点など、何かがうまれることは少なくないからです。
そこで社員同士のコミュニケーションを交わす機会を増やすのに、多くの社員が集まってくるオープンなスペースを社内につくることもひとつの方法です。
たとえば、みんながよく行き来する場所(プリンタ、自販機、タイムカード、テーブルと椅子など)を一か所に集約するといったことも考えられますね。これなら少ないコストですぐにでも実行可能です。ちょっとしたランチミーティングも開催できそうですね。
みなさんの会社では、実質的で意味のあるコミュニケーションの場とはどんなものでしょうか?
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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