新人として入社したとき、作業現場ではオロオロするだけだったが、先輩・上司の指導や本人の努力で力をつけてきた。経験を積んで、イレギュラー事態の対応や取引先とのやり取りもスムーズだ。面倒見がよいので現場でも後輩らに慕われていている。やるじゃん。
・・・入社してはや10年目。平均的な昇格を考えると、そろそろ管理職に昇格して責任を担ってほしい。
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頼りになるベテラン社員、コツコツとした働きぶりで周囲からの人望も厚いようです。けれども管理職へのステップアップを拒否してきました。さあ、思いがけない事態が発生してしまいました。
昇進への打診を断る中堅・ベテラン社員に対して、会社としては処遇をどのように考えればいいのか、今回はこのあたりについて詳しく確認していきたいと思います。
キャリアの複線化
現場の一線を退き、部下のマネジメントを行う管理的な立場よりも、自分の職業人生をかけて現場でコツコツと技術を積み重ねたい、と考える社員もいます。
高い技能を持ってプロフェッショナルな仕事を行う、専門職的な社員の存在は会社にとっても有益なはずです。
そこで無理やり管理職への着任を強要して、本人のモチベーションを下げたり、「現場を引退しないといけないのなら辞めます」と離職させてしまうほうが、会社にとっては損失です。
そのような人材に対して、プロフェッショナルとしての道を進む人事コースを設けるのもひとつの方法です。
つまり人事制度におけるキャリアコースを単線ばかりでなく、たとえば「管理職コース」「専門職コース」という具合に、複線化するということです。管理職になるより現場に残りたい社員の処遇も頭打ちにならずに、プロフェッショナルとしての技能を深めるべく、本人のモチベーションを喚起することができます。
この内容的に、製造業がイメージしやすいかもしれませんが、「プロフェッショナルとしての専門知識や技能を深める」という観点からいえば、業界を問わず「プロ営業職」があってもおかしくないですし、IT業界なども当てはまるかと思います。
管理職になりたくない理由
管理職になるよりも現場で技能を磨きたい社員の処遇については、前述の通りですが、一般的に多くみられる、管理職への登用を拒む理由についても考えてみる必要があります。
人事制度上の問題や見直すべきポイントがわかるかもしれません。
なかでも早急に見直すべき点として挙げられる理由は、下記のように3つ挙げられます。
- 残業はさらに増え、責任が重くなるのに給料が見合っていないから(残業代がなくなる分、収入が下がる場合すらある)
- 残業する人が評価されて昇格できる仕組みになっているので、毎晩遅くまで残業する部下の管理はできないと思うから
- そこで自分の時間をめいっぱい費やしたとしても、さらに昇格・昇給は見込めないと思うから
そもそも管理職として残業代の支払いが不要となる対象者には、管理監督者としてふさわしい給料として、残業代よりも多額の手当が付与されている必要があります。金銭的な面もさることながら、仕事上の裁量や権限を管理職に与えて、「部下の手を借りてひとりではできない、顧客のためにやりたいことを実現できる」といった管理職の魅力やメリットを伝えることも必要でしょう。
これからの正社員のあり方は
前段の「管理職になりたくない理由」に挙げられるように、なぜ会社は残業体質になってしまうのでしょうか。さまざまな原因や見方があると思いますが、そのひとつは「正社員のあり方」でしょう。
これまでの正社員は仕事の内容や範囲が曖昧で、「なんでもかんでもやる」ことが当たり前とされてきました。
自分には直接関係がないと思われる仕事を頼まれても、断りにくいケースが多いと思います。
(特に管理職になるとその傾向は顕著ではないでしょうか??)
同一労働・同一賃金の議論が高まるなか、これからはますます職務(仕事内容)に着目した処遇のあり方にシフトしていくと考えられます。
これまでのように「正社員だからなんでもやる」のではく、責任範囲や専門領域をきちんと定めることが大切です(そうすることで、実は「やらなくていい仕事」が意外と見つかるかと思います。即刻「やらない仕事」へ仕分けすることがポイントです!)。
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今まででは、ベテラン社員が出世したくないなんて信じられない、思いもよらないことだったかもしれません。
これをきっかけに、人事制度におけるキャリアの複線化、役割の明確化など、自社における正社員のあり方を考える機会にしたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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