就業規則の効力が発生するタイミングは、社員に説明を行ったときであり、労基署への届出は必ずしも効力の発生要件ではありません。
ただし、就業規則の合理性を判断する際には、労基署への届出をはじめ手続きの遵守も問われるので、場合によっては、効力うんぬんよりも就業規則そのものが無効となってしまいます。
就業規則が有効になるかどうか、気をつけなければならないのは就業規則を変更したときであり、その変更パターンは4つあります。
つまり、この4つの変更パターンを把握して、やるべきことをやっていなければ、就業規則自体が無効になってしまいます。
そこで今回は、4つの変更パターンに着目して、就業規則が有効になるとき、無効になるときについて詳しく確認していきたいと思います。
就業規則の変更4パターン
法律では「社員の合意がないのに、就業規則を不利益変更することはできない」旨が定められています。
このことから就業規則の変更が有効になるかの判断基準は、2点あることがわかります。
- 就業規則の変更に「合意があるか/ないか」
- 就業規則の変更が社員にとって「有利か/不利益か」
この2点を組み合わせると、次のように4パターンになります。
- 社員の合意があって、内容が社員にとって有利なとき
- 社員の合意があって、内容が社員にとって不利益なとき
- 社員の合意がなくて、内容が社員にとって有利なとき
- 社員の合意がなくて、内容が社員にとって不利益なとき
わかりやすくするために、内容を単純化してお伝えしましょう。たとえば主な変更内容が社員の「給料」関係だったとします。
1.の場合は、「今まで賞与は年2回だったけれど、この業界は伸び盛りで当社も業績がすこぶる良いので、年3回にして社員に還元します!」、社員にとってのメリットがたくさんあるGoodな就業規則の変更にもちろん社員は「わーい!」と同意している場合です。
2.の場合は、「業界の伸びに陰りが出てきたので、年3回の賞与は年2回とします」「今までが良すぎたんだよな、まぁしょうがないか」と、社員にとってのデメリットのある就業規則の変更はBadではあるけれど、会社の状況を理解して社員も同意している場合です。
3.の場合は、ある月に社員が給料明細を見て「えっ、食事手当が1,000円ついている!食事手当って何?!こんなの初めて!」。
会社は、業績回復のため残業も増えた社員にせめてもの還元として、夜食代の食事手当を支給することにしました。
あらかじめ社員の同意をとることはありませんでしたが、社員にとって有利であることは間違いない、といった場合です。
4.の場合は、「この不況の折り、業界も大打撃を受けており、当社も例外ではありません。よって賞与は今後支給しません」
「えーーーっ、そんな、生計が成り立たない。会社がなんとかしてくれないと!」
・・・とBadな就業規則の変更に社員がYesと頷いてくれない場合です。
就業規則が有効にならないときにはどうするか
「社員の合意がないのに、就業規則を不利益変更することはできない」のですから、1)や2)は社員の合意があるので、内容を問わず就業規則の変更はOK、有効となります。
3)は社員の合意はありませんが、社員にとって有利な変更なので、これも変更OKです。
問題は4)のときです。この場合は、原則として認められません。
ただし「周知」と「合理的変更」の要件を満たすなら、例外的に認められることになります。
★就業規則の変更 4パターン★
有 利 | 不利益 | |
合意あり | 〇 | 〇 |
合意なし | 〇 | × ※ |
※「合意なし×不利益」の場合⇒「周知」「合理的変更」の要件を満たせば例外的にOK
合理性の判断は、①社員のうける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況といった事項に照らし合わせて個別に判断されます。やや曖昧なので、専門家の意見を参考にしながら要件を満たす配慮が必要です。
合理的変更の要件は満たしていても、「周知」の要件が不十分の場合、就業規則は有効とならないので注意が必要です。
近年では、「周知」の手続きに対してジャッジは厳しく、就業規則の変更を無効とした判例も続いています。
なぜ社員への説明、周知が大切なのか
周知がなければ就業規則の変更は有効になりません。
ですから特に就業規則の不利益変更を行う場合には、社員への説明会を実施し、就業規則の変更が社員に与える影響をしっかり伝えることが大切です。
また不利益を受ける社員には、個別面談を実施して誠実に対応することをお勧めします。
このように社員ひとり一人と真摯に向き合って、就業規則変更の内容や目的を理解してもらい、なるべく多くの社員から同意を得る努力が必要です。
なぜ社員の同意を得る努力が必要なのか、理由は2つあります。
- 前述の通り社員の合意があれば、就業規則の変更は内容を問わず有効となるから。
- 説明会や個別面談を実施して、真摯に社員と向き合ったことは、合理性の判断「④労働組合等との交渉の状況」で、肯定的に認められるから。
つまり、不利益変更をせざるを得ない、現在の会社の経営状態を社員にしっかりと説明し、会社と社員が一体になって、この状況を乗り越える覚悟が社内で固まっているのか、いないのか。
会社のあり方が問われることになるのです。
社員の同意を得るためにも、今後の経営の見通し、これからの社員の処遇、経営者の想いや考え方を整理したうえで、説明に臨むことがとても重要になります。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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