営業部のある女性社員は、「派手なストーンで飾った」「濃色の」「長すぎる」ネイルで毎日、取引先を回っている。爪が派手すぎないか?あんなに長くて、ゴテゴテした飾りが爪についていて営業車で事故らないのかな。取引先の印象も良いはずがない。
営業職で採用した社員だけど、社外対応がない他の部署へ異動させたい。それが無理なら懲戒処分の対象にならないのか?
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仕事に関わることとはいえ、今どきのファッションとして許容するべきなのか、注意してもセクハラととられないか、など問題の扱い方について悩みは深くなるようです。
そこで今回は、営業職で採用した社員の異動に法的な問題があるのか、詳しく確認していきたいと思います。
配属先の変更に問題はないか
採用者の配属先の決定や変更は、人事権として会社に認められている権限のひとつです。そうはいってもその権限が、どんな場合でも認められるわけではありません。
職種、仕事の内容、勤務地を限定せずに採用した社員については、スキルや適性、または必要性に応じて、人事権の裁量は広く考えることができます。
一方、職種を限定して雇用契約が締結された場合、原則として会社は一方的に職種を変更することはできません。
冒頭の例でいえば、営業職限定で募集を行い、採用の段階で営業職以外への異動はない、という説明をしていれば、雇用契約の締結時に職種が限定されていると考えられます。
配属先の変更は認められないでしょう。
このような限定がなく、人事権の濫用とみなされるような不当な目的でない場合は、他の部署への異動は認められることになります。
会社が考えておくべき「派手なネイル」への対応とは
ファッションや美容など業界によっては、女性社員に身だしなみの意識を持ってもらうため、福利厚生として「ネイル手当」や「ネイル出張サービス」を導入している会社もあるようです。
そんな風潮もあって、女性社員のネイルへの苦言をためらってしまうことがあるかもしれません。とはいえ職場の風紀や秩序を保つため、会社としては次のことを考えておく必要があります。
1)処分(ペナルティー)の問題
仕事中にネイルをいじっているのを見ると、職務怠慢だ、ペナルティーで戒めたい!と感じることもあるでしょう。
1日中いじっているなら話は別でしょうが、仕事中に少々いじっている程度なのであれば、「職務専念義務違反」として処分を考えるのは無理があると思います。まずは口頭で注意を行いましょう。
2)安全・衛生面の問題
衛生面についてオフィスでの事務作業では問題になりにくいですが、たとえば飲食店などでは食中毒やウィルス対策のため禁止することになるでしょう。マニキュアやネイルアートが欠けて、異物混入するおそれがあるからです。料理の中に入っていたら、クレームになることは必至です。
また冒頭にもあるように、ネイルチップ(つけ爪)や長爪では営業車運転の安全性に支障が出そうです。
爪が邪魔でそもそもハンドルがうまく握れなかったり、握っても爪が手にくいこんでしまって、ハンドル操作に不安があります。
したがって、安全運転のためにネイルを禁止することは考えられます。重大事故の原因が営業社員のネイルであった場合、企業の姿勢が問われてしまいます。
3)仕事の効率・生産性の問題
パソコンの入力作業をはじめ、長爪やネイルの装飾が仕事に邪魔になることがあるでしょう。明らかにペースが落ちているなら、顧客や後工程の人に迷惑がかかる旨を伝えるべきです。仕事の効率や生産性の観点から、ネイルをやめさせるのは当然の業務命令といえます。
顧客と関係を築くにふさわしいか
不確実性の高いこれからの時代、「市場から稼ぐ」との意識がない(会社がなんとかしてくれる、とのぶら下がりマインド)社員ばかりの企業は、生き残れなくなると思います。
それには、まずは最終的にお金を払ってくれる顧客の存在を意識することからです。すると多方面の情報に対してアンテナがたち、市場が求めるサービスや商品を提供しようとする意識も強くなります。
そこで対外的に顧客と応対する営業職が、個人的な趣味で派手すぎるネイルをしていたらどうでしょうか。
トラディショナルな社風の顧客であれば、「こんな担当者を寄越すなんて」「仕事の話はできない」「この会社は常識がない」と信頼関係を築けずに失注するなど、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまうかもしれません。
顧客に心を開いてもらってニーズを探るには、ふさわしいとはいえない身なり・・・ではないでしょうか?たとえ、先方のメリットを思いながら提案書を作成したり、プレゼンの準備をしていたとしても、相手の信頼を得ることが難しくなってしまいます。
とはいえ、ネイルの禁止について、就業規則の服務規律に記載しておくだけでは、「派手だからダメなんだ、女性のファッションに理解がない」「時代遅れの感覚についていけない」と会社の真意が伝わりません。
衛生面や仕事の能率、顧客の特性などの観点から説明して、仕事にふさわしいかどうか?について注意喚起し、本人の仕事のプロとしての自覚を促したいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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