「明日は研修ですが、用事ができて会社を休んでもいいですか?」
「・・・えっ?!(ちょっと待って、なんでこのタイミング?)」
会社が人材育成を行う目的は、個人の能力を高めて組織の能力を高めること。そのため会社は社員へ先行投資するのです。研修の実施もそのひとつです。
会社としては、実施する研修の効果を高めるため、期間、内容、対象者の範囲、講師など熟考したカリキュラムを実施します。
そんなところに参加対象の社員から年休の申請が( ゚Д゚)・・・研修日を避けて他の日に休ませても果たしていいのか・・・
そこで今回は、会社として研修期間中の年休申請にどのように対応するべきかについて、詳しく確認していきたいと思います。
研修の受講は「事業の正常な運営」を妨げるか
社員が年休取得を申請してきた場合、それによって事業の正常な運営が妨げられるときには、会社は年休取得を拒否する権利(時季変更権)があります。
時季変更権を行使するには、事業の内容、規模、本人の担当業務、事業活動の繁閑、予定された年休日数、他の社員の休暇との調整など様々な事情を、総合的に考えたうえでの判断が必要です。
受講者の範囲を特定した研修(たとえば昇進・昇格にかかる中堅社員の階層別研修など)では、その参加は他の社員では代替がきかない業務と考えられます。
また、昇進や昇格を視野に入れた中堅社員の階層別研修は、短期間で集中してマネージャーとしての高度な知識や技能を習得させる目的で行われています。
年休の取得によってその一部を欠席しては、研修の目的を十分に果たせるとは言えないでしょう。
よって「事業の正常な運営が妨げる場合」、つまり仕事が通常通りスムーズに回らないとき、と判断されるため、会社は時季変更権を行使することができます。
研修の意義や目的を社員と共有できているか
一方で、そもそも会社が重視する研修期間中、「なぜ合理的な理由もなく年休取得の申請があるのか」についても考えておく必要がありそうです。
その研修はまさに余人をもって代えがたい業務であること、中堅社員の自覚をもって受講するものであること、昇進や昇格を見据えて会社が力を入れたカリキュラムであることなどが、十分に社員へ伝わっていないのかもしれません。
会社の戦略や目標は、社員が継続的に成長していくことによって達成されます。そのため会社には、社員が成長する機会を提供していくことが求められます。
では、「社員が成長する機会」とはどのようなことをいうのでしょうか。具体的には、ちょっと背伸びが必要な仕事を与えることで個人のキャリアアップの「場」を提供することかもしれませんし、業務に必要なスキルを向上させるための研修を開催することかもしれません。
同時に、社員としても自己研鑽に励むことによって、自分が仕事のうえで創り出す価値を押し上げる努力が求められます。せっかく「成長する機会」を与えられても、それを活かしてチャレンジしないのではもったいないですよね。デキるビジネスパーソンは、ここぞというチャンスをものにして、上手に「変化の波」を乗りこなしています。
つまり、会社と社員がともに、エネルギー(時間・コスト・労力)を投資して人材価値を向上させる姿勢が欠かせないのです。
人材育成コストは経営方針によるが
もちろん人材育成にどれだけコストを投じるかどうかは、経営方針によると思います。
スタートアップ時など短期間で成長を目指すなら、短いスパンで収益が出る機会を目ざとく見つけ、低コストで雇用できる人を必要に応じて有期雇用することも考えられるでしょう。
一方、育てた人材が生み出す価値で中長期的に渡って会社を伸ばすことを目指すのであれば、覚悟を持って働く環境を整え、働く意欲を上げるよう、人を育てる仕組みを考えなければなりません。
社員にしても、後輩に今までの仕事を譲って自分はワンランク上の仕事をする機会をつくるなど、日常的に自らの人材価値を高めることに取り組む必要があるでしょう。
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冒頭のような「せっかくのスキルアップ期間にあえて年休を申請する」事態が発生したときには、(口から出そうになる文句や𠮟責の言葉をグッとのみこんで)「研修の目的ってなんだかわかる?」と問いかけてみましょう。
会社と社員が意識を共有したパートナーシップを築けているかどうかについて、再確認する機会にしたいですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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