うちの新入社員は、配属先がどこであろうと工場勤務からスタートだ。当社の製品をよく知ってもらうための、いわゆる工場実習。本社採用であっても1年程度の工場勤務があるけれど、初めにに明示しておかないとダメなのかな?
**
新人研修の一環で、現場での実習を行う企業もあり、工場などでの現場研修が終わると、本社採用者は本社に戻ります。
そのため、労働契約時に明示することが義務付けられている「就業の場所」「従事する業務内容」は本社に関するものだけでいいのか、それとも研修とはいえ現場での勤務についても明示するべきなのか?と判断に迷われるケースも多いようです。
そこで今回は、本社採用者にも現場での勤務があることを労働契約時に明示しておくべきなのか、について確認していきたいと思います。
労働条件の明示義務とは
社員を採用するにあたって、労働条件を明示せずに労働契約を締結すると、会社と社員との間でトラブルが発生することは想像に難くありません。
そこで、労基法15条では、労働条件にまつわる会社と社員との間のトラブルを防止するために、労働契約の締結にあたって労働条件を明示することを会社に義務付けています。
社員は、明示された労働条件が事実と異なる場合、即時に労働契約を解除できることになっています。
ただし、明示された労働条件のすべてを指すのではなく、労基法15条1項によって明示すべきこととされている労働条件(絶対的明示事項と相対的明示事項)が事実と異なる場合に限られます。
また、入社のために引っ越しをした社員が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合には、会社は必要な旅費を負担しなければならない旨が労基法に定められており、会社に帰郷旅費を負担する義務が生じることになります。
どこまで明示すればいいの?
会社は労働条件を明示しなければならないとはいえ、明示事項のうちの「就業場所・従事する業務内容」では、どの程度まで求められるのでしょうか。冒頭の例でいうと、研修時の業務内容、本社に戻ってからの業務内容のいずれを明示すべきなのでしょうか。
これについて、下記のような旨が通達で示されています。
- 就業の場所と従事すべき業務については、雇い入れ直後の就業の場所・従事すべき業務を明示すれば足りる。
- 将来の就業場所や従事させる業務をあわせて網羅的に明示することは差し支えない。
労働契約の当初から、将来の契約内容の変更が予定されているケースも通常ありえるでしょう。
そんな場合は、契約当初の労働条件を明示していれば、会社としての労働条件を明示する義務を果たしたことにはなるけれど、その勤務場所や職種について予想される範囲までを明示しておくのが望ましい、ということが通達の内容からわかります。
冒頭の例でいうと、研修は1年程度ということであっても(とはいえ1年って結構な長さですよね)、工場勤務を経てから本社に戻して本社での業務に従事させることがすでに決まっているわけですから、その双方について明示することが望ましいということになります。
**
社会構造の移り変わりによって、いまでは働き方が多様化しています。さまざまな雇用形態の社員がひとつの会社でいっしょに働くのは、ごく一般的なことです。
それだけ労働契約の内容がさまざまに多様化している、ということですから社員に対して労働条件を明示して契約内容を明示する重要性はいっそう高まっています。
優秀な人材を定着させるためにも、「言った・言わない」のトラブルは避けたいものですね。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
■提供中のコンサルティング
■顧問契約・単発のご相談を承っています
■役に立つ無料コンテンツ配信中
■ブログの過去記事