「いい人に来てもらいたいから、求人広告に載せる初任給を高めに設定しておこう。実際にそうするかは人を見てから判断しよう・・・」
人手不足の時代では、より熱心に働いてくれる人に来てほしいもの。
そのため、たとえば求人広告で初任給について「課長職と同等の給料を支給」と書きながらも、実際に支給するのは同社の課長クラスの平均を下回る最低ランクというのではどうでしょうか。
課長クラスの給料には違いありませんが、入社した社員からすると「思っていたのと違う!」と感じるかもしれませんし、法律的にも問題がないかが気になりますよね。
そこで今回は、求人広告の内容と実際の待遇に差があっても法律的に問題ないのかについて、詳しく確認していきたいと思います。
求人広告は採用の第一段階
求人広告を出しただけなら、それは応募者と雇用契約を締結したことにはなりません。
通常の採用活動では「求人広告→書類や面接による選考→採用決定→雇用契約の締結」といった流れになると思いますが、求人広告は採用プロセスのファーストステップにすぎないからです。
つまり、求人広告を出したことによって、必ず課長職と同等の給料を支払わなければならないわけではありません。
職業安定法では求人の際、新聞や求人雑誌等で社員を募集するなら誤解を生まないように、分かりやすく的確な表現によって、労働条件の明示を行わなければならないとしています。
けれど実際には求人広告に条件を載せる時点では、どの程度のキャリアやスキルを持った人が応募してきて、そして選考を経て採用になるのかわかりません。よって、入社後の給料を確定して記載するには無理があります。
ですから、条件のうち給料については、「求人を行う時点での給料額」を載せることになってもやむを得ないと解釈されています。
会社には説明の義務がある
とはいえ、入社してから実際に支払う給料を「課長クラスの下限にする」とはじめから決めていながら、求人広告に「課長職と同等の給料を支給」と記載したのであれば、法律の趣旨に反することになります。
まとめると、求人広告に載せる給料の額を会社は必ず支払わないといけないわけではありませんが、その内容と現実が異なる場合にはきちんと説明して、誠実な対応が求められます。
採用が決定して、具体的な雇用契約を締結する前に、その説明責任が生じることになります。
これを怠った場合には、企業に損害賠償を請求される可能性もあるので注意が必要です。
冒頭の例で言うと、求人広告に「課長職と同等の給料を支給」とあれば、少なくとも課長職の平均水準の給料をもらえる、と期待して応募してくる可能性は大きいでしょう。とはいえ、実際面接してみると、業務知識やスキルが同社の課長職の平均レベルではない。ただし業界経験があるので、伸びしろがあると見込まれる。よって、次の昇給・昇格時までは、課長職の初級クラスの給与レベルで本人の成長の様子をみたい。
・・・このようなケースも十分想定できます。このように条件が合わない場合、本人に向けて次のような説明をするといいと思います。
「当社の課長職には、○○○の知識を持って、○○○といった業務をやってもらっています。あなたの経歴を伺っているとこういった実務経験はないようですね。けれどあなたには仕事へのガッツがあり意欲的なので、今までの業界経験を応用させれば半年で追いつくことができるでしょう。
はじめは課長職の初級クラスの給料水準ですが、この半年でスキルなどを改めて評価したいと考えています。具体的にはこのようなスキルや知識を身につけてください(人事評価基準をみせながら)。これで了承してくださるなら、ぜひ当社へ来てください」
採用活動で考えておきたいこととは
採用活動で考えておかなければならないことは、限られた人件費を何にどう振り分ければリターン(=会社が求める理想の人材に近い人の採用)を最大化できるのか?ということです。
人件費には、毎月の給料やボーナス、退職金、福利厚生費があり、広い意味では採用費や教育費もこれに含まれます。同じ人件費であっても、これらの何に配分するかで応募者に与える印象が変わります。
たとえば初任給と退職金のバランスひとつをとっても、会社がいくら退職金を手厚くしていても、新卒者にはピンとこないかもしれません。
一方で退職金がなければ、業界によっては冷たい印象を与えてしまう可能性もあります。単に求人広告へ高い給料を提示すれば良いわけではなく、会社が人材を中長期的なスパンでどう活かしていくのか、という考えや姿勢が大切です。
新卒採用の場合は、まだ社会人経験のない学生さんにとってもわかりやすい説明ができるといいですよね。たとえば下記のような具合です。
「うちの会社では一人前になるまでに、コツコツ技術を積み重ねてもらう必要があります。せっかくご縁のあったみなさんなので、できるだけ長く腰を据えて頑張ってもらえればと考えています。だから初任給としては、他の会社よりも高いとは言えませんが、その分みなさんが長い間頑張っていただいたことに応えられるよう、退職金として還元します。たとえみなさんが当社を辞めることになったとしても、次のキャリアへのチャレンジをお金のことでためらってほしくないとも考えています。」
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なお、「人材の活かし方は考えているが、自社に合った人を必ずしも採用できるかわからないので、初任給の設定に迷う」ということであれば、入社後の当初2~3か月を「お試し入社期間」として有期雇用契約にすることもひとつです。
会社が求めるスキルを有しているかどうか、また本人にとってもやりたい仕事なのかどうかは実際に社内で仕事をしないとわからないからです。
その場合、就業規則には「採用にあたって、試用期間に代替して、仕事内容への適正評価を目的とした3か月以内の有期雇用契約を締結することがある」との旨を定めておけば良いでしょう。
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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