企業の不祥事で、「役員報酬を〇か月にわたって減俸します」とか謝罪会見などで聞くけれど、これは一般社員にも適用されるのかな?( ;∀;)
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不祥事に対する経営陣の責任の取り方として「報酬額〇%カット〇か月間」といった報道発表があると、こんな疑問が生まれませんか?
労基法では、就業規則で減給の制裁を規定する場合において、その減給の最高限度を定めています。減給の額があまりに多額となって、社員の日常生活を脅かすことがないようにするためです。
それなのに社員に対する減給処分「月給〇%カット〇か月間」は有効なのでしょうか?
そこで今回は、社員に対する数か月にわたる給料カットが有効なのか、詳しく確認していきたいと思います。
「減給の制裁」の制限
会社が社員に対して行う減給処分は、「1回の額が平均賃金の1日の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはダメ」だと、労基法で定められています。
ここでいう1回の額とは1事案を意味します。つまり、遅刻1回も、多額の損失を発生させた交通事故も1事案は1回としてカウントされることになります。
たとえば遅刻を10回したとして、平均賃金5日分(0.5日×10回)までは減給できるけれど、月給の10分の1(3日分)を超えることになってしまいます。
そこで、残りの額はどうなるかというと、結局のところ翌月分から控除することになります(月給の10分の1を超えた部分を次期にのばして減給することは認められています)。
なお、賞与から減額することは、賞与も賃金であるとして労基法の定める「減給の制裁」にあたります。よって、減給の総額は、賞与の総額の10分の1を超えてはいけないことになります。
ただし、「懲戒を受けた者は功績を欠く」という査定の結果として、賞与が減額されるというケースは、これに該当しません。とはいえ、このケースにおいても「支給ゼロ」となるような減給は、軽微な事案については公序良俗に反するため無効、と考えられていますので、注意が必要です。
「月給〇〇%カット△△か月間」は有効か
減給の制裁をめぐってよく問題となるのは、たとえば「月給の10分の1を6か月間減俸する」といった処分が社員に対して有効なのか?ということです。
1回の事案についてこのような処分をするのであれば、前段でお伝えしたように、労基法の定めに違反するので無効となります。
ただし、労基法上においては、降格処分により賃金が降格した地位に応じて減額となることは認められています。また、実質的に同じ目的で「降格6か月」といった処分を行うことも、職務とともに下位に変更する降格処分の要件を満たすのなら差し支えありません。
なお、「1回(1事案)」についてのカウントのやり方について、労基法では刑法上の包括一罪(1つの刑罰規定に触れる数個の行為が、全体として一つの罪と扱われる)という考え方はとられていません。たとえば毎日遅刻があったとして、これを包括せずに1回ごとに減給の制裁の対象としていい、ということです。
さらに一例を挙げれば、部下が3か月間で20回、総額1,000万円にのぼる横領を行い、その監督を怠った上司を処分することになったとします。このケースでの横領は20事案とカウントされるので、平均賃金の10日分(0.5日×20回)の減給処分をとることとなりました。
そこで、適法な範囲で減給を繰り延べして、実質的に“減俸1割、3か月”の処分を行うことは可能だということになります。
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わが国の企業社会では、社員の教育の中心はOJTにあります。
つまり、上司は部下を日常の業務のなかで指導・教育していかなければならない、と広く一般的に考えられているということです(たとえば、「上司が部下に注意しなかったから黙示の承認になる」など)。
そうした上司の活動のひとつに、信賞必罰としてのペナルティー(懲戒処分)がありますが、社員のプライバシーにも配慮しなければなりません。
部下の横領などについては、事実が判明するまで上司が横領と決めつけて社内で言いふらすといった、軽率な行動をしないよう注意が必要です。
■参考記事
■この記事を書いた人■
社労士事務所Extension代表・社会保険労務士 高島あゆみ
「互いを磨きあう仲間に囲まれ、伸び伸び成長できる環境で、100%自分のチカラを発揮する」職場づくり・働き方をサポートするため、社会保険労務士になる。150社の就業規則を見る中に、伸びる会社と伸びない会社の就業規則には違いがあることを発見し、「社員が動く就業規則の作り方」を体系化。クライアント企業からは積極的に挑戦する社員が増えたと好評を得ている。
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